浩介は中学の時の同級生・真緒と再会し結婚する。だが、次第に真緒は謎めいた存在になって行く。
ミステリアスでファンタスティックなラブロマンス。
製作:2013年
製作国:日本
日本公開:2013年
監督:三木孝浩
出演:松本潤、上野樹里、北村匠海、葵わかな、玉山鉄二、菅田将暉、他
レイティング:一般
◆◆ この映画の猫 ◆◆
役:☆☆(脇役級)
①主人公が救った猫 ②猫飼い婆さんの家の猫数匹
名前:不明
色柄:①グレー ②白茶、三毛、茶トラ、キジトラなど
◆消えた彼女
松本潤と上野樹里がカップルを演じたラブストーリー。女子力貧弱で若かったときから恋愛映画には興味がなかった私、この映画ができたときはとうに若くもなく当然スルーしていましたが、猫が出てくる映画のブログをやっていることを知った中学の同級生からこの映画を紹介され、取り上げることにしました(紹介されてから長い年月が経ってしまいました。ごめんなさい)。
恋愛ムードを盛り上げる場面やセリフなどにはちょっとお尻がムズムズしましたが、思った以上に後を引く作品です。
見たことがある方はご存知だと思いますが、これは種明かしをしてしまうと半分興趣がそがれてしまうミステリー映画のひとつ。上野樹里が演じる女性主人公が次第に不可解な存在になっていく、その過程が甘いストーリーの中にも丁寧に描き込まれています。現在だったらCGなどで過剰な視覚的演出が施されそうな局面もリアルな映像で、それがこの映画のミステリー的雰囲気をバックアップしています。製作は2013年と比較的最近の映画ですが、その間にもずいぶん世の中が変化していることを感じさせてもくれます。
原作は越谷オサムの同名の小説。女性主人公はクリスマスが近づいた頃、急に姿を消してしまいます。
◆あらすじ
広告代理店に勤める奥田浩介(松本潤)は、見込み客の企業にプレゼンに行ったとき、そこに勤める中学のときの同級生・渡来真緒(わたらいまお/上野樹里)と再会する。中学時代の真緒(葵わかな)は幼稚で勉強が全くできず、同級生たちからいじめを受けていたが、そんな真緒をいつも浩介(北村匠海)がかばい、勉強を教えたりもしていた。初キスも交わした二人だったが、中3のとき浩介の家が引っ越し、連絡も取らずに10年の歳月が流れていた。
真緒は中学時代よりずっと聡明で垢ぬけていて、浩介の仕事のアドバイスや手伝いまでしてくれた。二人は休日にデートするようになる。
江の島に出かけた日、真緒は急に近くの実家に来てと言い、浩介が真緒の両親に真緒との結婚の申し込みをする流れになってしまう。だが、浩介は真緒の父親(塩見三省)から、真緒は里子で13歳より前の記憶が全くなく、今後浩介のことも忘れてしまうかもしれないと聞かされ、結婚も許してもらえなかった。浩介の気持ちは変わることなく、二人は駆け落ちの形で婚姻届を出し、都内の団地に新居を構える。だが、しばらくすると真緒の体調が乱れ始める。
浩介が真緒の両親に相談すると、真緒は推定13歳でたった一人で夜中に全裸で歩いているところを保護され、身寄りもなく、警官だった父親が引き取ったと聞かされる。体調不良にもかかわらず真緒は部屋にクリスマスの飾りつけをし、ニューヨークに旅行に行こうなどと言う。
職場で倒れた真緒は、真緒のことを好きだった先輩の新藤(玉山鉄二)に車で送ってもらうが、真緒は江の島に行ってほしいと告げる。新藤はあとをつけて真緒が猫飼い婆さんの大下(夏木マリ)を訪ねて話をしているのを目撃する。
そんなある日、団地の隣の部屋のベランダから子どもが転落しそうになる。母親と浩介が必死に腕をつかんで引っ張り上げようとするが力尽きたそのとき、落ちた子どもを空中でキャッチし、無事着地したのは真緒だった。
そのあと、真緒は急にいなくなってしまう…。

◆猫レスキュー
映画が始まってすぐ、小3の浩介がグレーの子猫を胸に抱いて、江島神社の参道にいる母と弟に近づいて来ます。浩介は岩場で挟まれて動けなくなっていた子猫を見つけ、手に切り傷を負いながら助けて連れて来たのです。けれども子猫は浩介のお守りを首につけたまま浩介の腕から逃げ出し、それっきりになってしまいます。
真緒と暮らし始めたとき浩介はその思い出を話し、一目でその猫に恋に落ちたけれど見事に逃げられたと真緒に話します。浩介の手にはそのときについた傷痕がくっきりと残っています。
結婚する前、そんな猫好きの浩介は、真緒と江の島を訪れたときも猫がたくさんいる場所に真緒を連れて行きます。浩介は転校するまで江の島の近くに住んでいて、昔からその場所を知っていたのです。そこは猫婆さん・大下の住むあたり。なぜか真緒は浩介に用事を言いつけ、その間に大下と話を始めます。そのあと真緒はいきなり自分の実家に行こうと言い出し、結婚へとつなげます。
好きになった勢いのまま結婚した浩介と真緒。真緒には大下だけが知っている、結婚を急がねばならない理由があったのです。
子ども時代の浩介がグレーの猫を抱いて現れるのは開始から1分27秒頃、江の島のデートで大下の猫に会うのが47分45秒頃。岩場で浩介がグレーの猫を助ける回想シーンが60分頃、その後、大下の家の場面で何度か彼女の猫たちが映り、最後に124分10秒頃、浩介と新たなグレーの子猫との物語が始まります。
◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆陽だまりのわけ
ミステリアスな恋愛映画。真緒の正体がわかってからはファンタジーとも言えそうです。まだ映画を見たことがない人は、真緒が何者だったのかおわかりになりましたでしょうか。ヒントとしては、日本の昔話にも通じるモチーフがこの物語に見られるということ。このブログでは基本的にラストについては明かさないことにしていますので、その推理が当たっていたかどうかは映画を見ていただきたいと思います。
映画はそのラストが最も議論や論評の分かれ目となったりすることがあるので、ラストを言わずしてこの映画を語ったことになるのかと時々ジレンマに陥ることもあります。この映画についてもラストについて言いたいことは色々あるのですが、やはり伏せておきましょう。
一つだけ言うとすれば、真緒の正体がわかってからあとが面白くなくなってしまいます。描き方によっては非常に幻想的で芸術的な映画になる可能性があると思いますが、それは原作小説の世界とは異なるのでしょう。
◆素敵じゃないか
浩介と真緒は恋愛と結婚のいいところだけを具現化した、清潔感たっぷりのカップル。二人の世界はビーチボーイズの「素敵じゃないか」に乗って夢いっぱい。あくまでそのきれいな夢を壊さないのがこの映画に求められるところです。
少し標準からずれたところのあるキャラクターを演じるとピカ一の上野樹里の真緒は、真面目な役ですが、重くなっていないところがよい。松本潤の浩介は押しが弱くて真緒に再会するまで女の子に逃げられてばかりという設定。こんなイケメン君を女の子が放っておくわけないですけどね。
その浩介の少年時代を演じた北村匠海も今年2025年のNHKの朝ドラ「あんぱん」で、漫画家やなせたかしがモデルの主人公の夫を演じ、旬の俳優に成長。13歳の真緒を演じた葵わかなも、この映画の4年後の2017年、NHKの朝ドラ「わろてんか」で吉本興業の創業者・吉本せいをモデルにした主人公を演じました。松本潤、上野樹里も大河ドラマで主役(徳川家康、江)を演じましたね。
今や芸能界で押しも押されもせぬ存在のこの映画の若手出演者たちですが、ちょっと不満があるのが、猫婆さん・大下のキャスティングです。大下は、普通の人間にはない超自然的な力を持つ存在。真緒が彼女に何ごとか話を持ち掛けるのもそれゆえなのですが、どうもこの映画の大下は人間・夏木マリの個性が表に立ち過ぎて見えるのです。魔女とか妖怪とも違う、作りこまずして不思議な存在感がある人がほしかった…と思いついたのが、2024年に亡くなったピアニストのフジコ・ヘミング。猫が常に周りにいたし、なんとも言えないオーラをまとっていた彼女は、わたしの中の大下像にピッタリなのですけれど。
そうそう、出演者として菅田将暉の名前を挙げましたが、彼は浩介の弟役。ストーリーの主軸に関わってこないので何も触れませんでした。菅田将暉ファンの皆様、ごめんなさい。
◆変わる世の中
真緒の勤務先は女性下着メーカー。真緒の所属する広報部は、浩介たちに自社そのものを印象付ける広告を打ってほしいと依頼します。浩介は真緒の作った原案をもとに、駅周辺の壁面の大きな看板への掲出を提案しますが、鉄道会社にデザイン案の女性の下着や裸がいやらしいと拒絶されたら今後のビジネスに差し支えるとして、上司から待ったがかかります。けれども、浩介は街中にはヌードを扱った広告があふれていることに気づき、デジカメを持ってその実例のハンティングに出かけます。真緒がそれを手伝い、二人で都内をめぐる中、撮影用のダミーの広告とはいえ、当時はこんなにも女性の体や男女の接触を思わせる攻めのイメージがはびこっていたかと驚きました。
二人の集めた実例をもとに、広告はヌードを取り入れたものになりますが、現在は裸や官能性をテーマとした広告はぐっと減り、むしろ浩介の上司の感覚の方向にシフトしていますよね。性的な表現ばかりでなく、広告界では男女の固定された性別役割イメージも排除されつつあり、家事用品のCMなどは男性が出ているものが多くなっています。消費者の不快感を買った企業がSNSで批判にさらされるという風潮がそれを促進したと言えます。
この広告ハンティングの場面で、浩介がデジカメで撮影し、ペンで撮影場所などのメモを紙の地図に記録しているというのも、今ではスマホで済む話です。浩介と真緒がスマホで連絡を取り合う場面もありませんし、街中にもスマホを見ている人は見当たりません。
二人の恋をはぐくんだ江の島も江ノ電も、今では観光客で大混雑ですが、この頃は平穏な風景です。
こうしてわずか12年ほどの間に世の中がずいぶん変化していることをこの映画は物語っています。その背景にあるのがスマホ、SNSの普及と言えるでしょう。
◆最初で最後
映画のキャッチコピーは「最初で最後の恋(うそ)だった。」。三木孝浩監督は、少女漫画が原作の恋愛映画をたくさん手掛けているそうです。この映画で画面いっぱいの顔だけのアップが多かったのも漫画的な構図と言えなくもありません。三木監督の映画を拝見するのは今回が初めてでした。
この映画を選んだとき、初回限定生産として売られていた特典つきのDVD(注)をためしに中古で買ってみました。アイドルや推し活にも無縁の私としては、こういうおまけはどんなものなのか一度見てみるのも勉強だと思ったからです(おまけつきの方が安かったですし)。
セット内容は、本編と予告編を収めたDVD、三木監督・松本潤・上野樹里による本編ビジュアル・コメンタリーDVD、メイキングや未公開シーン、主題歌(山下達郎『光と君へのレクイエム』)のミュージックビデオなどを収めたDVDの3枚組ディスクに、DVDとおまけを収める豪華外箱、豪華ブックレット、ポストカードセット、ミニクリアファイル。32ページもあるブックレットは活字情報がびっしりと思いきや、「恋愛ってこんなにすてき」と言わんばかりの写真アルバムのようでしたが、原作小説が”女子が男子に読んでほしい恋愛小説№1“として累計発行部数100万部を超えるベストセラーだったということが書いてありました。そしてこの中の越谷オサム氏の、映画化に当たって原作者として抱えていた葛藤について記した文章を面白く読みました。
越谷氏は、映画が原作より出来がひどかった場合の、「原作の足元にもおよばなかったな」というコメントと、期待以上の出来だった場合の「原作のおかげだな」というコメントを準備して試写を見たそうです。結果は「原作のおかげだな」だったということ。猫飼い婆さん大下についてはどう思ったのでしょう。
セットに封入されている購入者プレゼントの応募はがきには、浩介と真緒が江の島の恋人の丘のフェンスに付けた南京錠を模した恋愛成就の鍵(1名様)、助けた猫に持って行かれた浩介のお守りのレプリカ(1名様)などの賞品が贈られると書いてあります。この鍵・お守りに当選したそれぞれ1名様が、その後どのような人生を過ごしていらっしゃるのか、とても興味があるのですが・・・。
(注)2013年発売:アスミック・エース


