1930年のマルセイユを舞台に、アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドの二大スターで魅せるギャング映画。
製作:1970年
製作国:フランス
日本公開:1970年
監督:ジャック・ドレー
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、アラン・ドロン、ミシェル・ブーケ、
カトリーヌ・ルヴェル 他
レイティング:一般
◆◆ この映画の猫 ◆◆
役:☆(ほんのチョイ役)
魚市場に乱入未遂の猫たち
名前:不明
色柄:三毛、白に黒ブチ、キジトラなど10匹ほど
◆最強のふたり
1950年代の終わり頃からフランスを代表する男性俳優として人気を二分した二人の共演で話題となった映画です。実はこの記事は9月のジャン=ポール・ベルモンドの命日に合わせて公開する予定だったのですが、8月18日のアラン・ドロンの死去を受けて、急遽内容に手を入れてお届けすることといたしました。
1935年生まれで甘い二枚目のドロンと1933年生まれのひょうひょうと自然体のベルモンド。女性に絶大な人気のドロンに対し、ベルモンドは男っぽさで男性に人気がありました。
二人は何度か共演し、親しかったそうです。『黙って抱いて』(1958年/監督:マルク・アレグレ)から、最後の共演『ハーフ・ア・チャンス』(1998年/監督:パトリス・ルコント)まで足掛け41年。二人で一緒に電話ボックスに入るかわいい不良役の『黙って抱いて』。『ボルサリーノ』以来28年後の共演『ハーフ・ア・チャンス』。この映画では若い女性が二人のうちどちらかが自分のお父さん、と訪ねて来ます。二人はシワと白髪が目立っていましたが(ベルモンドは頭は真っ白で眉毛は黒)、この頃まだ60代、けっして枯れてはおられません。どっちがお父さんでも娘冥利に尽きるさっそうとしたシニアぶりです。
ベルモンドは2021年9月6日に88歳で亡くなっています。奇しくもアラン・ドロンが亡くなったのも同じ88歳。ベルモンドの葬儀では国民的俳優としてマクロン大統領が弔辞を読んだとか。ドロンについてはどうなるのやら。スルーしたらファンが黙っていないと思いますが。
アラン・ドロンについては『危険がいっぱい』(1964年/監督:ルネ・クレマン)のときに少しお話ししたので、そちらもどうぞご覧ください。
◆あらすじ
1930年のマルセイユ。刑務所から出所したばかりのロック・シフレディ(アラン・ドロン)は、愛人のローラ(カトリーヌ・ルヴェル)のいたキャバレーを訪ねていくが、ローラは男と出て行ったという。シフレディはキャバレーの支配人が自分を警察にたれこんだと決め付けて、店に火を放って出ていく。
ローラはとあるバーでフランソワ・カペラ(ジャン=ポール・ベルモンド)というチンピラと一緒にいた。シフレディはカペラと殴り合いになるが、互角に戦ううち二人は意気投合する。
二人は地元でやくざな頼まれ仕事をしたりするうちにリナルディという弁護士(ミシェル・ブーケ)と知り合う。リナルディは、マルセイユを二分する顔役の一人・マレロ(アーノルド・フォア)を後ろ盾としていた。もう一人の顔役はポリ(アンドレ・ボレ)。リナルディ弁護士はカペラとシフレディに妹を紹介し、妹は夫がマルセイユの魚市場を独占的に支配するための工作を二人に依頼する。作戦は成功、二人は贅沢な待遇を与えられる。
シフレディはマレロと対抗する顔役のポリを標的に、次なる作戦をカペラに持ちかけるが、カペラは乗り気にならない。そんな折、カペラは少し前に偶然知り合った女性・ジネット(ニコール・カルファン)に再会しボートに誘う。だが、ジネットはポリの女でポリに平手打ちされ、カペラはポリの手下に容赦なく殴られる。カペラはシフレディの作戦に乗ることを承諾する。
二人はポリの食肉工場に忍び込み火を放つが、事前にばれて待ち伏せされ退散、ジネットも殺される。二人はマシンガンなどの武器を手に入れ、ポリを撃ち殺して復讐する。
残るもう一人の顔役のマレロは、二人に、自分のシマは荒らすな、弁護士のリナルディには手を出すなと忠告する。マレロはリナルディと結託して利権を独占すべく、リナルディをマルセイユ市長選に推していた。
シフレディは裏社会に本格的に勢力を広げていき、マレロを脅かす存在になっていく。そんなある日、リナルディが暗殺される。マレロと通じるリナルディを襲ったのはシフレディでは、とカペラは疑うが、それはシフレディに恨みを持つ者が仕掛けた罠だった。二人は血で血を洗う争いに呑み込まれて行く・・・。
◆ネコ襲来!
シフレディとカペラが魚市場の独占を企てる夫妻に頼まれて計画したのは嫌がらせ。
市場で商売敵が魚を広げている屋台に腐った魚を紛れ込ませ、この店では腐った魚を売るのかと声を上げ、客に化けた仲間の女たちが騒ぎ立てるという戦法。騒ぎに乗じてカペラたちが商品台をひっくり返し、商売ができないようめちゃくちゃにしてしまいます。
仕上げは猫軍団。馬車の荷台に積んで来た木箱の蓋を開けると10匹ほどの猫たちがなだれを打って飛び出し、フギャ~ッと舗道を駆け抜けます。三毛、キジ白、白黒・・・魚が散乱する売り場に猫たちが一目散に駆け込んで、更に大騒ぎになるところが撮りたかったのかもしれませんが、所詮猫のこと、ほかの猫に「やんのかポーズ」をきめてる奴がいたり、人間の思惑通りにことは進みません。魚が落ちている方には目もくれず、脇道に向かって散開していった、という状況。
猫役者たちが再び集められておうちに返してもらえたかどうかは不明。猫迷惑な撮影です。
猫の登場場面は開始から44分30秒頃です。
◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆
◆ベルモンドにしやがれ
ここからはベルモンドについて。代表作と言えば、ジャン=リュック・ゴダールの『勝手にしやがれ』(1960年)。ストレートに入って来るタイトル、街を自在に切り取る映像、主人公ミシェルを演じるベルモンドのファッション、犯罪を犯罪とも思わないキャラクター。どうしようもない奴だけれど憧れる。先日、若い人向けのとあるファッション・ビルの中を歩いていると、この映画のベルモンドとジーン・セバーグのスチル写真をイメージとして飾っている店があり、ああ、この映画は今も現役なのだ! と感激しました。
同じくゴダールの『気狂いピエロ』(1965年)もベルモンドのキャラクターを生かした代表作。彼はアクションも得意で『リオの男』(1964年/監督:フィリップ・ド・ブロカ)などスタントを自ら演じています。アラン・ドロンが動かない写真で魅力を伝えられる俳優だったのに対し、ジャン=ポール・ベルモンドは動く映像でこそ魅力を発揮する男。『ボルサリーノ』ではもう少し動的な彼が見たかったと思います。
◆対等のふたり
『ボルサリーノ』のテーマ曲はきっとどこかで耳にしたことがあるでしょう。CMやBGMなど、様々にアレンジされ、映画音楽と知らずに聞いている人も多いと思います。
『ゴッドファーザー』シリーズ(1972年~/監督:フランシス・フォード・コッポラ)や、『仁義なき戦い』シリーズ(1973年~/監督:深作欣二、他)も音楽が印象的です。イタリア系移民がアメリカ社会で自衛・互助のため確立させたマフィアの世界、その宿命を哀愁高く歌い上げた「ゴッドファーザー・愛のテーマ」。やくざ同士の抗争を描く実録ものとして、耳をつんざく効果音で緊迫感を表した『仁義なき戦い』。
それらに比べると『ボルサリーノ』は脱力系。明るく軽妙なメロディーとリズム、調子っぱずれ風のピアノは殺伐としたギャングの抗争を茶化しているかのように聞こえます。『第三の男』(1949年/監督:キャロル・リード)を幾分意識したと思える音楽の、作曲はクロード・ボラン。
『ボルサリーノ』には『ゴッドファーザー』や『仁義なき戦い』のような残虐な描写はあまりなく、今の我々には刺激が足りないように思えますが、ストーリーの流れはおおよそ同質のものです。
ファミリー・ビジネスのマフィア、親分子分・義兄弟のような疑似家族を形成するやくざと異なり、『ボルサリーノ』は対等な男の友情もの。最初はしがないチンピラとして女の取り合いで出会うカペラとシフレディ。
どちらかというと犯罪体質でイケイケなのはドロンのシフレディ。ベルモンドのカペラは少し穏やかなところがあり、想いを寄せたジネットがポリに殺され、その復讐を遂げたあたりから少しずつギャング稼業に対する熱量にシフレディと開きが出てきます。シフレディはシカゴからスロットマシンを大々的に輸入し、娯楽産業などへ手を広げます。
弁護士のリナルディを市長に送り込み、マルセイユの利権を独占しようと画策する顔役のマレロに対抗意識を燃やすのもシフレディ。そのリナルディが殺されたとき、てっきりシフレディがやったと思っていたカペラのもとにリナルディの妻がやって来ます。夫を襲った犯人を見たと言う彼女。カペラは子分を使ってその犯人を始末し、カジノにシフレディを捜しに行きます。
テーブルを囲んでいたシフレディを見つけ、無言のうちに、疑って悪かったなと微笑むカペラ。なんだい? というような顔のシフレディ。なんとも心憎い場面です。
◆コイントス
リナルディ暗殺の濡れ衣をシフレディに着せようとした者にカペラが報復したあとは報復に報復の応酬。ついにカペラとシフレディの前から敵がいなくなると、カペラはいずれ二人が敵同士になると、マルセイユを去ることにします。
この映画には、カペラとシフレディがなにかの選択をする際にコイントスで決める場面が3回出てきます。カペラがマルセイユを出ていくと聞いたシフレディは、止めようとして自分が出ていくと言い出します。どっちが出ていくかを決めようと、カペラがポケットをゴソゴソやってコイントス。カペラが出ていくことになります。けれどこのとき、カペラがズルをしていたことがシフレディにばれます。1回目も2回目も、コイントスはカペラのいかさま。こういうお茶目な芝居はベルモンドに似合うと思います。
二人に役を交代させてみたらどうだろう、という想像も膨らみます。けれどラストを見て、ああ、やっぱりベルモンドがカペラで正解だ! と納得しました。ネタバレになるので理由が明かせないのがもどかしいのですが、やっぱりこの最後は「動」のベルモンドでなければ!
猫美人の納得の理由を知りたい方は、『ボルサリーノ』と共に、先に挙げたゴダールの作品のラストを見ていただければと思います。
◆血を分けたふたり
そんな柄の悪い男たちの黒っぽい画面に、華やかな女性たちが差し色のように登場します。シフレディとカペラが取り合ったローラ(カトリーヌ・ルヴェル)の、セクシーな水商売風から素朴な田舎風までの幅広いファッション、魚市場の有力者の妻(フランソワーズ・クリストフ)とリナルディ弁護士の妻(コリンヌ・マルシャン)の華麗なドレス、カペラと惹かれ合うジネット(ニコール・カルファン)は若い女性らしく白を基調とした清潔な装い。いずれがあやめかかきつばた。多少添え物感はあるものの思いがけないお土産を得たような気分になります。
そんな中で、大地の匂いのするシフレディのママが忘れられません。アラン・ドロンが出演した1960年の『若者のすべて』(監督:ルキノ・ヴィスコンティ)で南イタリア出身の未亡人のお母さんが黒い服を着ていますが、シフレディの高齢のママもそんな黒い服を着ています。内職をする母に「目を悪くするよ」と、二人の会話はイタリア語。シフレディはイタリア系なのです。
『ボルサリーノ』は登場人物の個人史や人間性にはほとんど迫らず、表面的な出来事を追っている映画です。けれども、そこにちょっと違った空気をママの存在が吹き込むのです。残念ながらママについてもそれ以上掘り下げはないまま映画は終わってしまいます。シフレディがなぜギャングの世界に染まっていくのか、そこに少しでも踏み込むことでこの映画には厚みが生まれたのではないでしょうか。そのキーはこの母と息子の生活の中にありそうだったのですが・・・。
ちなみに「ボルサリーノ」とは、イタリアの帽子会社とその会社製の帽子だそうです。
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