この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

キアヌ

チョーかわいい猫を取り戻せ! 猫のためにフツーの男がヤバい仕事に手を染める。
キアヌ・リーヴスが声の出演をする、猫好き必見のアクションコメディ。

 

  製作:2016年
  製作国:アメリ

  日本公開:劇場未公開
  監督:ピーター・アテンチオ
  出演:ジョーダン・ピールキーガン=マイケル・キーティファニー・ハディッシュ、
     メソッド・マン、(声の出演)キアヌ・リーヴス、他

  レイティング:――(未公開のため) 

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆☆(主役級)
    3人の飼い主を転々とする子猫
  名前:イグレシアスまたはキアヌまたはヌー・ジャック
  色柄:キジトラ

 

2025年1月に発生したロサンゼルスの山火事で、ご自宅を焼失されたこの映画の出演者アンナ・ファリス氏、またその他の被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

 

◆キアヌは子猫

 今年も猫の日がやって来ました。
 当ブログは一年中猫の日みたいなブログですから、今さら騒ぐこともないのですが、やはり毎年作品の選定に迷います。人寄せパンダならぬ人寄せ猫とばかり、猫をことさら前面に出して売り込もうとする映画やドラマには私はあまり食指が動きません。が、やはりこの日は年に一度のお祭り。猫の充実度重視で映画を選ぼうと思っています。
 さて、今年選んだ『キアヌ』は日本での劇場公開がされなかったということですが、こちらの人寄せ役はキアヌ・リーヴス? 中盤でほんの数十秒、主役の猫の声をキアヌ・リーヴスが吹き替えています。タイトルにつられてキアヌ・リーヴスが出るのかと待ち構えていても出てきませんよ。人騒がせな題名ですが、原題も『KEANU』。キアヌと名付けられた猫をめぐる楽しいアクションコメディです。何より主役の子猫が本当にかわいい! 猫好きにぜひ見ていただきたい1本です。

◆あらすじ

 アメリカ、ロサンゼルスの、とあるドラッグの密造所に二人組の有名な殺し屋・アレンタウン兄弟が訪れ、そこにいる者を一人残らず撃ち殺す。密造所のボスが命乞いしながら差し出した1匹のキジトラの子猫が、銃弾をかいくぐって外に逃げ出す。猫の名はイグレシアス。
 その頃、閑静な住宅街に住むレル(ジョーダン・ピール)は彼女に振られ、どん底まで落ち込んでいた。いとこのクラレンス(キーガン=マイケル・キー)が心配してレルの家を訪れると、レルは晴れやかな表情でクラレンスを出迎える。この少し前、銃撃戦から逃げた猫のイグレシアスが偶然レルの家にやって来て、そのかわいさにレルはすっかり癒されたのだ。レルはイグレシアスにキアヌ(ハワイの言葉で涼風)という名前を付け、かわいがる。
 ある日、レルがクラレンスと外出している間にレルの家がめちゃくちゃに壊され、キアヌの姿が消えていた。レルの家の向かいで麻薬を作っているフルカという男の家と間違えられたらしく、フルカに聞いたところ、襲ったのはブリップスという麻薬の密売グループでは、ということだった。キアヌは彼らに連れ去られたと考えたレルは、クラレンスを連れて彼らの拠点へ乗り込む。
 二人は、ハイC(ティファニー・ハディッシュ)という女性の案内でボスのチェダー(メソッド・マン)に面会し、ワルのふりをして話を合わせているうちにアレンタウン兄弟と間違えられる。ボスの机にはキアヌがいて、海賊のようなターバンをまとい、ヌー・ジャックという名前を付けられていた。
 キアヌを取り戻したいレルが、いくらなら猫を売るかと聞くと、チェダーはクスリを顧客に届け、子分たちにお手本を見せてくれたら猫を渡すと言う。レルが承知し、クラレンスは慌てるが、子分らと共に客で俳優のアンナ・ファリス(本人/クレジットなし)の豪邸に向かう。
 クスリ漬けのアンナをハイCが撃ち殺し、代金をかっさらってボスのチェダーのところへ戻ると、明日の取引に同行してくれと言われ猫を渡してもらえない。レルとクラレンスはキアヌを捜し出して逃げ出すが、今度は本物のアレンタウン兄弟に捕まってしまう。キアヌの助けで二人はアレンタウン兄弟を倒して逃げるが、またもチェダーの一味が二人を待ち構えていてキアヌを奪われ、翌日の取引に連れていかれる・・・。

◆ミヤーオで悩殺

 映画が始まるとすぐ、机の上を歩くキジトラの子猫が登場。猫好きの心をひっかくそのかわいさ。誰でも一目でノックアウト! ミャア、と鳴く子猫独特の声。悶絶必至です。
 たくさんのシーンに猫が登場する映画として代役は必須、キアヌ役のキジトラ猫も7匹いたそうです(注1)。生まれて2~4ヵ月といったところでしょうか。
 この主役の猫選びこそ映画の成否のカギ。アレンタウン兄弟のドラッグ密造所襲撃から逃げ出し、失恋で立ち上がれないほど苦しんでいたレルを一目で癒し、レルの家からさらわれ、ブリップスのボスの極悪のチェダーの猫にされる。その猫を渡してもらう約束で、レルとクラレンスがヤクを売りに行くミッションを果たしたのに、チェダーは猫を放さない・・・。こうした一連の流れを観客に受け入れてもらうためには、当の猫がただただとびきりかわいくなければなりません。ああ、こんなにかわいい猫だったらみんな手放したくないよなぁ、手に入れるためなら罪だって犯しちゃう、と思わせる猫。そうした意味で、よくまあこんなにかわいいのを集めた、とスタッフをほめてあげたいです。
 よくある動物映画のように、人間の言葉で会話させたり、モノローグをかぶせるのではなく、キアヌ役の猫は普通にニャーと鳴くだけです。ただ一箇所、人間の言葉で話すシーンがあり、そこでキアヌ・リーヴスが声の吹き替えをするのです。それはクラレンスがブリップスの拠点で生まれて初めて薬物を吸引し、幻覚を見ている中でのこと。
 幻覚の中でクラレンスは「私だ、キアヌだ」と呼びかけられます。キアヌから、この先どうするかは君が選択しなければならないと言われるという『マトリックス』(1999年/監督:ウォシャウスキー兄弟(現姉妹))のパロディ的なこの場面。「ミヤーオ」と言うキアヌ・リーヴスの声は、ファンの方ならぜひとも聞いておかなければなりません。
 そういえば『マトリックス』にも猫が出ていましたね。

◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆キー&ピール

 猫好きでない人には並みの映画と言われてしまうかもしれませんが、爆笑とはいかないまでも、こなれたギャグで笑いを誘うテンポのよいコメディです。
 主役のレルとクラレンスのいとこコンビを演じたジョーダン・ピールキーガン=マイケル・キーは、キー&ピールというお笑いコンビなのだそうです。『Key & Peele』というTVシリーズ(2012~2015年)で人気だったとか。この二人にとって『キアヌ』は初めての映画。ピールが共同で脚本を書いています。
 ずんぐりむっくりのレル(ジョーダン・ピール)は、猫のキアヌをモデルに色々な映画のワンシーンを撮影してカレンダーにしているところを見ると、デザイナーでしょうか? 1980年代の日本で流行した、子猫にツッパリの格好をさせて写真を撮った「なめ猫」のような感じのコスプレ写真です。『シャイニング』(1980年/監督:スタンリー・キューブリック)や、キアヌ・リーヴスが出演した『ハートブルー』(1990年/監督:キャスリン・ビグロー)、エンドクレジットの前にも『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年/監督:ジョージ・ミラー)や、『エルム街の悪夢』(1984年/監督:ウェス・クレイヴン)など、合わせて全部で14種類の写真が出てきます。
 細くてのっぽのクラレンス(キーガン=マイケル・キー)は、普段羽目をはずしたことのない真面目なマイホームパパ(死語?)。アレンタウン兄弟に間違えられてチェダーのグループの子分たちを教育したときには、輪になって自己紹介させたりと、まるで企業研修。好きな音楽も黒人系のラップなどではなく、愛や家族を歌うジョージ・マイケルの歌。子分たちから拒絶反応が起きてもおかしくないのに、そんな世界に接したことが微塵もない彼らが、乾いた砂地が水を吸うように取り込んでしまうところが笑えます。
 アレンタウン兄弟が得意の、壁を駆けのぼって空中で一回転するワザを見せてと子分たちに言われ、やってみたらできちゃったクラレンス。レルもやってとせがまれますが、「日替わりだ」と逃れます。
 二人がこんな風に場当たり的にピンチを切り抜けていくのが主なギャグ。そんな中でアンナ・ファリスのところにクスリを運んだときにコンビを組んだ、ハイCという女性とレルがいい感じになっていきそうなのが後半の楽しみです。

◆罪ある子猫

 ところで、チェダーのグループの拠点からキアヌを取り戻して逃げたレルとクラレンスを、なぜアレンタウン兄弟が襲ったのか。
 どうやら彼らもキアヌがほしくて奪いに来たようです。そもそもドラッグ密造所を襲撃したときに、この兄弟、キアヌ(このときはイグレシアス)に一目ぼれしたよう。
 最後にチェダー一家がレルとクラレンスを連れて行った「翌日の取引先」の男は、最初にアレンタウン兄弟に襲われたドラッグ密造所のボスのいとこ。アレンタウン兄弟を賞金付きで探していたのですが、いとこの猫のイグレシアス(キアヌ)がいるのを目にして引き取ろうとするとチェダーが拒み、銃撃戦に。
 そんなこんなで一匹の猫をみんなが奪い合って、あとはおなじみのカーチェイス。レルが死に物狂いでキアヌを守ったのは言うまでもありません。キアヌもレルの愛情に体を張って応えます。
 ドラッグ密造所から始まって、キアヌを巡り何人の人が命を落としたのやら。この手の映画でわりとよくある「ああそうだったんだ」というタネ明かしを経て、映画はハッピーエンドに。

◆未公開の謎

 この映画ができた頃だと思いますが、キアヌ・リーヴスが猫の声の出演をする映画があるという話題が私の耳にも届いていたので、『キアヌ』が日本未公開だったとは思っていませんでした。猫はかわいいし、楽しい映画だし、なぜ日本では公開できなかったのでしょう。キアヌをモデルにしたカレンダーの写真に使われた映画の権利関係が絡んでいるのでは、と思っているのですが、あくまで私個人の想像です。
 『キアヌ』はネット配信やレンタルなどで見られますが、市販のソフトには撮影を通じてキアヌを愛してしまった共演者の声などが収められた特典映像が入っていますので、猫好きさんはそちらの方がより楽しめると思います。
 亡霊のようなおぞましい風体のアレンタウン兄弟を演じているのは意外な俳優(クレジットなし。最後まで見るとわかります)。ピールとキーとキアヌ・リーヴスはアニメの『トイ・ストーリー4』(2019年/監督:ジョシュ:クーリー)で声の共演をしているとか。
 7匹のキアヌ役の猫は、特典映像によるとキアヌ6とかのコードネームで区別されていた模様。うち1匹を、ハイCを演じたティファニー・ハディッシュが自分のペットとしたそうです(注2)。

(注1、2)IMDb KEANU

 

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