11年の空白を経て妻のもとに帰ってきた男。稼いだ金を奪われ、牛泥棒の烙印を押され、妻の拒絶にあった彼の絶望と怒りが町を混乱に陥れる。
製作:1965年(1966年とも)
製作国:アメリカ
日本公開:1967年
監督:バーナード・マッケヴィーティ
出演:チャック・コナーズ、キャスリン・ヘイズ、マイケル・レニー、
ビル・ビクスビー、クロード・エイキンス、他
レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
◆◆ この映画の猫 ◆◆
役:☆☆(脇役級)
主人の死で残されたペット
名前:?
色柄:茶トラ
◆虎と狼
西部劇には、恨みを持って町を出た者が舞い戻って来て復讐をするというパターンがありますが、この映画もそのバリエーションのひとつ。
映画の原題は『Ride Beyond Vengeance』と、「復讐の彼方へ駆けろ」とでもいうようなもので、原作はアル・デューレンの小説『The Night of Tiger』。喧嘩っ早い主人公はタイガーとあだ名され、映画の中でも子どもがそう呼ぶのですが、邦題に含まれている「狼」は映画では出てきません。映画の原題が原作小説と変わってしまったのは、タイガーだとジャングルが舞台だと思われる懸念があったからだったようですが(注)、日本に渡ってさらに虎が狼に変わってしまったと知ったら原作者も驚いたことでしょう。
哀愁漂うギターに乗せた主題歌『You Can’t Ever Go Home Again』(歌:グレン・ヤーブロー)が流れる中、タイトルバックは現代アメリカ。その場所のまたの名は「報復の町」・・・。
◆あらすじ
映画製作時現在のテキサス州コールドアイアン。国勢調査のアルバイトの大学生が昼食をとりに寄った食堂で、主人から町の入り口の看板に書かれた「報復の町」の由来を聞くくだりから物語は始まる。
1873年、この町にジョナス(チャック・コナーズ)という男がいた。貧しい生まれの彼は金持ちの家のジェシー(キャスリン・ヘイズ)と愛し合って結婚し、ジェシーの家に住むが、町の男から働かなくても暮らせるんだろうとからかわれる。ジョナスはメンツにかけて町を出て働こうとジェシーを誘うが断られ、彼女を置いて出発する。
11年後、野牛狩りで1万7千ドルの大金を貯めたジョナスは、妻のジェシーの元に戻る途中で誰もいない焚火に近づいたとき、3人の男に囲まれて牛泥棒の疑いをかけられる。熱した牛の焼き印を当てられたジョナスは気を失い、気づくと金が消えていた。
町に帰って来たジョナスは婦人服店を営むジェシーを見かけて声をかけるが、ジェシーは誰だかわからず長旅で不潔なジョナスをひっぱたいて逃げる。
荒れたジョナスは、あのとき焚火で出会った3人のうちの一人、ギャンブラーのジョンジー(ビル・ピクスビー)を偶然見かけ、夜道で待ち伏せして金のありかを問い詰める。ジョナスに焼き印を突き付けられたジョンジーは、恐怖のあまり自分で腹に焼き印を押し当てて逃げ出し、自分を撃って死ぬ。
愛馬を売って身なりを整えたジョナスは再びジェシーと行き会う。ジェシーは養ってくれたおばが亡くなり、この11年間その借金の始末に一人で明け暮れ、手紙すらよこさなかったジョナスに激しく恨みをぶつける。ジェシーはジョナスが死んだと思い、銀行家のブルックス(マイケル・レニー)の求婚を受け入れたばかりだった。ブルックスはあのときの焚火の3人のうちの一人で、ほかの二人に黙ってジョナスの1万7千ドルを持ち逃げしていた。
3人のうちの最後の一人、牛牧場のコーツ(クロード・エイキンス)は、あのときジョナスが金を盗まれたことを知り、ブルックスが持っているとにらんで分け前をせびるが、シラを斬られる。コーツがブルックス以外に金を隠していそうだと疑った男はコーツに残忍に殺され、町の皆が無残な遺体を目撃する。ジョナスがいると死人が出ると、ジェシーはジョナスに町を出るよう促す。
自分にも危険が迫っていると悟ったブルックスはジェシーにジョナスとの間に起きたことを何もかも打ち明け、ジョナスに償おうとするが、分け前をもらっていないコーツはおさまらず、ブルックスとジョナスを襲う・・・。

◆癒しの部屋
「報復の町」コールドアイアン。この名の生れた当時は、酒場とホテルと銀行などがきゅっと集まった、典型的な西部劇スタイルの小さな町でした。
焚火の3人組の一人、ギャンブラーのジョンジーは借りているこの町のホテルの一室で、淡い茶トラの猫を飼っています。このジョンジー、24時間カジノにいるかのような派手な服装の伊達男。ベッドに置いた服の上に猫が乗っているのを見て乱暴に投げ飛ばすと、猫はフギャーッと叫んで静かになります。我に返ったジョンジーはベッドの下ですねて丸くなっている猫を「猫ちゃん」などと鼻にかかった声でのぞき込みます。DV男には暴力をふるったあととろけるように優しくなるのがいるそうですが、ジョンジーはその口かもしれません。
部屋の装飾はローズ色の壁紙にペールピンクのカーテンと、服に劣らずけばけばしい。ジョンジーの部屋とひと続きの隣室のドアを開けてメキシコ人の愛人のマリア(マリッサ・マシス)が入って来たとき、部屋の派手さからここは娼婦の館かと思ってしまいました。実際マリアはそういう女性だったよう。
ジョンジーが自死を遂げ借りていた部屋が空くと、ジョナスがそこを借ります。居抜きのため、猫もそのまま、隣室のマリアもそのまま。ただしマリアは部屋代を払えないので、ジョナスが立て替えてあげることになります。マリアはジョナスの好意は体が目的と思って服を脱ぎかけますが、ジョナスがそれを止めます。
金を盗まれ、妻のジェシーからは恨まれ、いいことのないジョナスに猫とマリアはあたたかく接し、ずっと思いつめた顔だったジョナスが猫をなでながら少し柔らかい表情になります。甘える猫の抜け毛がフワフワと宙を舞うのが画面に映り・・・おしゃれなジョンジーは服に毛がつくのがイヤで猫に怒ったのですね。
最後の場面でジョナスはこのホテルから猫を抱いて出てきます。猫は放たれ、いつもだったらその行方を気にする私ですが、この映画では隣の部屋のマリアがどうなったのかが気になって・・・。
猫が出てくるのは、37分過ぎのジョンジーに投げ飛ばされるところ、74分過ぎのジョナスと初めて対面するところ、81分過ぎのマリアと部屋でくつろいでいるところ、94分頃のジョナスに抱かれてホテルから出てくるところの4箇所です。
◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆恋と結婚
これといった解釈を必要としない、素直にストーリーを追って行けばよい映画です。ちょっと時間があるので映画でも、というようなときにほどよく満足できる1本ではないでしょうか。難を言うと、主人公のジョナス、妻のジェシー、伊達男のジョンジーと、Jで始まる名前の区別がつきにくいところ。山田さんと山川さんと山本さんが一緒に出てくる日本映画を外国人が見るようなもので、頭がこんがらかるはめになりました。
親代わりにジェシーを育てた裕福なおばさんが、貧しく家柄もよくないジョナスとジェシーの結婚を許したのは、ジェシーがジョナスに断りなく子どもができたと偽ったから。この町を出て働こうとジョナスが言ったとき、ジェシーは病気のおばを置いていけないと言い、野牛狩りで生計を立てるという計画にも気乗りのしない表情です。一人で行く決意を固めたジョナスが馬に乗って旅立つときも、ジェシーは家の中から窓越しに眺めるだけ。喧嘩別れ同然の形で二人は離れ離れになってしまいます。
◆ハードパンチャー
11年も連絡をしなければ、死んだか、いい人でも見つかって新しい暮らしを始めたかと思われて当然でしょう。大金を稼いだからには歓迎してもらえると思って戻って来るジョナスはあまりにも単純です。が、感情が行動に直結するジョナスの単純さこそこの映画のミソ。
カッと来たときの彼の武器はパンチ。その破壊力はプロボクサー並み。凶器のようなこぶしがいたるところで炸裂します。働かなくてもいいんだろうとからかった男、酒場の用心棒、ギャンブラーのジョンジー、牛牧場のコーツなどを相手に、数えたら音だけも含めトータルで30発。仮にジョナスが分別のある男だったらこのパンチの見せ場はないわけで、西部劇と言えば早撃ちのガンアクションという思い込みは見事に裏切られます。
そのジョナスを演じたチャック・コナーズ、検索すると野球選手としての写真が出てきます。Wikipediaでは俳優としての経歴よりプロスポーツ選手としての経歴が最初に書いてあり、なんとアメリカのプロバスケットボールリーグ(NBA)と野球の大リーグ(MLB)の両方で選手としてプレー経験があるというので驚きです。身長197センチ。おそらく運動神経抜群で、長いリーチから繰り出すパンチは相当のスピードだったはず。共演者もちょっとでもかすったらとビクビクしていたのではないでしょうか。
顔立ちはチャールトン・ヘストンに元横綱・照ノ富士を掛け合わせたような感じの闘士型。グラディエーターなどやったら似合ったでしょうねえ。
◆二人の女
銀行家のブルックスの求婚を受け入れ、新しい人生に踏み出そうとした矢先、短気で無一文の夫が戻って来るとは妻のジェシーも災難です。一人で頑張ってきた彼女の前髪には白いものが混じっています。
ジョナスについて行かなかったジェシーが悪かったのか、11年も連絡をしなかったジョナスが悪かったのか。ジョナスの方が旗色が悪いと思いますが、映画はジョナスにやや同情気味。ジェシーの嫌なところが強調されます。行方不明だったからと言って「あなたはもう死んだのよ!」などと言うとは、もはや鬼。
かたや、ジョンジーの愛人だったマリアは男性を暖かく受け入れる純粋な女性。彼女の貧しさも裕福に育ったジェシーと対比されます。
ジョンジーに指輪を買ってもらう約束をしていて、母にそう話したから指輪を手にするまで母のところに帰れないと言うマリアに、これを売って指輪を買いなさい、とジョナスは拳銃を渡します。
このときの二人の隠された気持ちは?
ジョナスは本当はジョンジーの代わりに指輪を買ってあげたかったけれども、一応はまだジェシーの夫だから遠慮したのでしょうか。そしてジョナスと出会った今、マリアはジョナスから指輪をもらいたかったのでしょうか。
◆最終決戦
最後に物語はとっておきの悪者を登場させて、待望の大立ち回りでクライマックスを迎えます。
焚火のところで出会ったコーツは牛牧場の牧童頭で、牛泥棒の仕業と見せかけて牛を横流しして稼いでいた卑しい男。ジョナスに牛泥棒の濡れ衣を着せたのもこの男です。このコーツ、ときどき自分の心の中の分身(ウィスキーマン)に話しかけるのですが、演出がいま一つで、彼の不可解さが十分描けていないのがちょっと残念。
コーツとジョナスの対決の舞台となったのは酒場。ぶっ飛ばされたコーツの体がガラス窓をぶち破り、双方テーブルや椅子をぶん投げ、飾ってあったシカの角でコーツがジョナスの喉首を攻め・・・最終的な決着はやはり西部劇らしく拳銃。その激しい争いの様子は絵に描かれ、現代の国勢調査のバイト学生が食事をした食堂に飾られています。
その夜が、原作小説の題である「The Night of Tiger」。食堂の主人は、メキシコ人は「タイガーの夜」と呼ぶが、この町では「報復の夜」と呼んでいる、と話します。虎はメキシコではどんなイメージなのでしょうか。ここであえて虎を持ち出すならその説明がほしかったですね。
出来としては普通の映画、光るのはチャック・コナーズの魅力です。チャック・コナーズは1958年の名作『大いなる西部』(監督:ウィリアム・ワイラー)や、SFの『ソイレント・グリーン』(1973年/監督:リチャード・フライシャー)、『復活の日』(1980年/監督:深作欣二)にも重要な役で出演して好印象を残しています。が、やはりこの映画の強烈なパンチを一度は見ておかないともったいない、というのが私の思いです。
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