飲んだくれのすご腕老保安官ルースター・コグバーンが再登場。今回もうるさい女性がついてきた!
ジョン・ウェインとキャサリン・ヘップバーンのシルバーカップルによる『勇気ある追跡』の続編。
製作:1975年
製作国:アメリカ
日本公開:1976年
監督:スチュアート・ミラー
出演:ジョン・ウェイン、キャサリン・ヘップバーン、アンソニー・ザーブ、
リチャード・ジョーダン、ストローザー・マーティン、他
レイティング:一般
◆◆ この映画の猫 ◆◆
役:☆☆(脇役級)
中国人リーの飼い猫
名前:プライス将軍
色柄:茶トラ
◆変わらない男
今年2025年の1月にご紹介した『勇気ある追跡』(1969年/監督:ヘンリー・ハサウェイ)の主人公、ジョン・ウェインが演じるルースター・コグバーンに再びスポットライトを当てた続編です。原題はまさに『Rooster Cogburn』。前作の主人公のキャラクターや背景をわかっているものとして作られた仕立てですので、『勇気ある追跡』を見ていないと少々置いてきぼり感があるかもしれません。
簡単に『勇気ある追跡』をおさらいすると、ならず者に父を殺されたマティという少女が、父の仇を討つために飲んだくれで荒っぽい老保安官ルースター・コグバーンを雇い、共に仇を探して旅をする映画です。詳しくは記事末尾のリンクから過去記事にアクセスしていただければと思います。
11歳くらいのマティは大人顔負けの頭の切れで、こまっしゃくれた口をききます。巨漢の老保安官が女の子にやり込められたり心を通わせたりするところが『勇気ある追跡』の味なのですが、この『オレゴン魂』では、それがキャサリン・ヘップバーン演じるコグバーンと同年代の口やかましい年配女性・ユーラに変わります。
アメリカを代表する俳優、ジョン・ウェインとキャサリン・ヘップバーンは同年齢。1907年5月26日生まれのジョン・ウェインに対し、キャサリン・ヘップバーンは同じ年の5月12日生まれ。二人とも長いキャリアでこれが初共演だとか。
キャサリン・ヘップバーンについても今年2025年7月に代表作『旅情』(1955年/監督:デヴィッド・リーン)を紹介し、堅物の主人公ジェーンのキャラクターを浮き彫りにしましたが、この『オレゴン魂』のユーラという役も、牧師の娘らしくキリスト教の道徳に基づく清く正しい生き方をコグバーンに求めます。
豪快な男くささのジョン・ウェインと、知的な演技派としてこのときまでに3回アカデミー主演女優賞を受賞していたキャサリン・ヘップバーンという二人が、60代後半にしてぶつかり合った本作には、男がリードし、女は従うという旧来の性別意識の変化をも見ることができるでしょう。
◆あらすじ
1880年代中期のアメリカ、アーカンソー州西部で騎兵隊が運ぶニトログリセリンの荷馬車が、案内役のブリード(アンソニー・ザーブ)という男の手引きによって無法者のホーク(リチャード・ジョーダン)一味に強奪される事件が起きる。
時代遅れの荒っぽさをとがめられ保安官バッジを取り上げられていた老ルースター・コグバーン(ジョン・ウェイン)は、ホークを捕えろと特別に認められ、バッジを胸に返り咲く。
ホーク一味はフォートルビーの教会の広場で狼藉を働き、コグバーンが駆け付けたときには牧師や何人もの先住民たちが射殺されていた。後を追うコグバーンは、牧師の娘でコグバーンと同年代のユーラ(キャサリン・ヘップバーン)を途中の交易所に避難させるが、ユーラはここでライフルや銃弾を買い、先住民の若者ウルフ(リチャード・ロマンシート)を連れてついて来る。コグバーンは邪魔だと言うが、ユーラは聖書にもとづき酒飲みで俺さま流のコグバーンに説教、意に介さない。
ならず者たちは途中の山道でニトロを積んだ荷車が壊れたため、一部が修理のためとどまり、ホークとブリードらが先にニトロの買い手の様子を見に行く。残った方の一味を見つけてコグバーンはユーラとウルフに手伝わせ、応援の保安隊が包囲したと芝居を打って撃ち合いの末ニトロの奪還に成功する。その最中にユーラはコグバーンを銃で狙った男を仕留め、コグバーンに一目置かれるようになる。
コグバーンはユーラを守りつつウルフと3人で野宿する。ホークは生き残りの一味と合流し、眠っていた3人を襲ってニトロを奪い返そうとする。コグバーンは荷馬車に積んであったガトリング銃をユーラに撃たせて一味を追い払う。3人は渡し場でいかだを借りて川を下る。
ホークたちは川の中流でロープを張っていかだをひっかけようとするが、かつてコグバーンの偵察員として3年も働いていたことのあるブリードがコグバーンたちを先に行かせ、ブリードはホークに撃ち殺される。
いかだの行く手の峡谷の崖の上や川にはホークたちが待ち伏せしていた。下流にホークたちの姿を見て、コグバーンはニトロが入った木箱を川に流す。木箱は川の中で馬に乗っていかだを待ち構えるホークらの方へ流れて行くが・・・。

◆将軍ふたたび
大酒飲みで荒くれ者のコグバーン。妻子に逃げられ、中国人の老人チェン・リーが営む雑貨店に住んでいるという状況は『勇気ある追跡』のときと同じ。そしてリーが飼っている茶トラの猫のプライス将軍も健在です。とは言っても、『勇気ある追跡』から6年経ったこの映画では、老人のリーはどう見てもジョン・ウェインより若い俳優に変わっていますし、将軍を演じる猫も代替わりして、前の猫の貫禄にはちょっと劣る感じです。
いつもの荒っぽいやり方で容疑者4人を撃ち殺し、裁判所に出廷したコグバーンは、この8年で64人の容疑者を殺したと裁判長にとがめられ、保安官バッジを剥奪されます。『勇気ある追跡』のときは死なせたのは過去4年で23人だったので、より過激になっていたわけです。
失業したコグバーンはリーの家でカードをしながら愚痴をこぼし、カンザスのビールは嫌いだと言って器にあけて猫の将軍に飲ませようとします。将軍はテーブルに乗って器に鼻を近づけたものの口をつけず、「まずいだろ、将軍」というコグバーンの問いかけは無視。
そこへコグバーンをクビにした裁判長が、ホークを捕まえてほしいと直々に訪れます。ニトロを取り返したら500ドル、ホークを捕まえたら1500ドルの賞金を出す、ただし生かして連れて来ること、という条件でコグバーンを再雇用。人材不足は今の日本に限らないようですね。
裁判長は帰り際、床にはいつくばっていた将軍のしっぽを踏みつけてしまい、将軍がウギャーッと抗議。将軍が叫び続けた時間はおよそ3秒半。裁判長、踏みすぎです! 裁判長は将軍にあやまるどころか「酔っぱらい猫め!」と捨てゼリフを。クビにしておきながら結局コグバーンに頭を下げざるを得なかったため、悔し紛れの八つ当たり。
と言うわけで、8分45秒頃に将軍の鳴き声がして、ビールを飲みにテーブルに上がるのが8分55秒頃。しっぽを踏まれるのが11分55秒頃。その間、裁判長とコグバーンが話し合う背後で、将軍はテーブルの上の裁判長の帽子に顔を突っ込んだりしています。将軍の出番はここまでです。
◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆オレゴンの追跡
『勇気ある追跡』がよほどアメリカ人の心に沁みたのか、この『オレゴン魂』はその雰囲気をなるべく崩さず、自然美やアクション描写を増やすことに神経を注いでいます。それにしても『オレゴン魂』とはなんともつかみどころのない邦題です。もう少し続編とわかるような題の付け方はなかったのかと思います。
ロケはオレゴン州のデシューツ国有林やローグ川周辺で行われ、その広大な景観、峡谷美もこの映画の楽しみのひとつです。
ストーリーの骨格は『勇気ある追跡』と同様ですが、今回は父の仇を追う娘と言ってもコグバーンと同年代の独身女性。先ほども言ったように、映画のジャンルとしてこれまで交わることのなかったジョン・ウェインとキャサリン・ヘップバーンというアメリカを代表する俳優の顔合わせは大いに注目を集めたことでしょう。それゆえ二人の演じるキャラクターはそれまでお互いの演じてきたタイプから外れることなく、観客も共有できる同窓会感覚を大切にしていると言えます。
先住民が多く居住する地域で、牧師の父と共に小さな教会で教師や看護師として働き、独身を貫いたユーラ。家庭婦人を目指すことなく神の仕事に生き、潔癖なユーラは『旅情』の主人公ジェーンを思い出させます。彼女に銃の扱い方を教えたのは最初の恋人で、その男性はユーラが信心深過ぎるゆえ彼女のもとを去ったのだとか。
◆オレゴン珍道中
ならず者のホークらが教会前の広場にやって来て先住民を相手に酒や銃を売ろうとしたとき、ユーラは銃で威嚇されても少しも恐れず、それらのものを先住民に売るなと諭します。勤勉の敵である酒や争いのもとになる銃を退け、先住民にキリスト教を布教しようと長年努力を続けてきたこの地で父がホークによって命を落とすと、腕に覚えがあった彼女は、ホークをコグバーンと一緒に捕えようと決意します。
けれども、コグバーンはユーラが戒めて来た酒と銃にどっぷり浸かった男。この男に彼女がかたきの追跡を頼るというのは、彼女の生きる筋道とは一致しないように感じますが、ユーラ自身の割り切った気性や、コグバーンの酒と不信心をユーラがやかましく説教することで、その点をぼかしています。
そこで繰り広げられるのが二人の掛け合い漫才のようなやり取り。酒のことをユーラが注意すれば、よく酒も飲まずにいられる、とコグバーン。不潔で酒臭いと言えば、酒の代わりに石鹸を渡し銃の代わりに聖書を渡す、と二人の舌戦は止まりません。
◆連れ合い?
アクション俳優としてのジョン・ウェインの最後の花道的な作品だった『勇気ある追跡』の6年もあとに作られたこの映画では、ルースター・コグバーンの老い、すなわちジョン・ウェインの老いがより鮮明になります。
『勇気ある追跡』で悪党のネッド・ペッパー一味と対決したとき、コグバーンは馬の手綱を口にくわえ、右手にライフル、左手に拳銃を持って撃ちまくります。けれども『オレゴン魂』では空中に放らせたパンを地面に立って撃つと、コグバーンは反動で倒れてしまいます。酒のせいもあるでしょうが、助け起こされてもフラフラ。
さすがに手綱を離して撃ちまくるというアクションはこの映画では見られませんが、代わりに登場するのがガトリング銃。複数の銃身が束になって連射する銃で、ニトロと一緒に騎兵隊が運んでいたもの。これをユーラもコグバーンも撃つのです。勇ましいことは勇ましいですが、ジョン・ウェインファンには往年のクルッとやるガンさばきが見られず、寂しかったのでは。
ユーラもすぐに疲れて横になりたがります。コグバーンは彼女の肩をもんだり、眠ろうとする彼女にヘビ除けのまじないをしたり、憎まれ口をききながらも長年の夫婦のようになってきた二人がどうなるか、ラストが見ものです。
◆あつまれ西部の森へ!
コグバーン対ネッド・ペッパーという宿命の対決へ物語が収斂していった『勇気ある追跡』に対し、『オレゴン魂』ではアクションシーンが分散し、ホークとの勝負の機運が今一つです。それより、ホークについていたブリードがホークを裏切り、昔の縁でコグバーンに味方するというのはあまりにも安直で、対決を前にかなり興ざめ。
川の渡し守・上海マッコイにコグバーンたちがいかだを借りるシークエンスはやけに丁寧だと思いませんか。これは渡し守役のストローザー・マーティンが『勇気ある追跡』で馬の売買人ストーンヒル役で出演していたからでしょう。とかくの評判があってもコグバーンは真の勇者=True Grit(『勇気ある追跡』の原題)だと認めるいい脇役でした。
こうした『勇気ある追跡』ファンへのサービスも盛り込みつつ、アメリカ映画ではおなじみの急流川下りも登場、いよいよ映画はクライマックスへ。コグバーンは生きたままホークを捕えることができるのか・・・?
さて、知性的演技派・キャサリン・ヘップバーンは、この映画を楽しめたでしょうか。この年頃の女性が年老いた親を殺されたにしては、ちょっとユーラは元気すぎると分析していたかもしれません。
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