この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

シンプル・プラン

怪しい大金を黙って持って帰った男たち。しばらく様子を見る間に不協和音が生じてくる。
人間性に切り込むサム・ライミ監督のサスペンス。

 

  製作:1998年
  製作国:アメリ
  日本公開:1999年
  監督:サム・ライミ
  出演:ビル・パクストンビリー・ボブ・ソーントンブリジット・フォンダ
     ブレント・ブリスコウ

  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆(ほんのチョイ役)
    作業場にいる猫
  名前:不明
  色柄:ポインテッド(シャム猫? ヒマラヤン?)


◆雪の降る町

 ほんのちょろっとしか猫が出てこないこの映画、終始雪深い田舎の町が舞台ということで、季節感からこの時期に取り上げてみました。
 サム・ライミ監督と言えば何と言っても『死霊のはらわた』(1981年)が有名。ホラー・カルト映画の代表的監督として名を馳せる彼の作品ということで尻込みする方もいらっしゃるかもしれませんが、『シンプル・プラン』は猟奇的な描写はなく、その手のジャンルが苦手な人も安心して(?)見ることができるヒューマンドラマ的サスペンスです。逆に言えば、サム・ライミ監督らしさを期待した人はがっかりするかもしれません。
 犯罪がらみの大金を偶然見つけることから始まる映画は数えきれないほど存在するはず。金を手に入れれば幸福も手に入るわけではないという永遠の真理を描いているものや、『ノーカントリー』(2007年/監督:コーエン兄弟)のように、犯罪者側が持ち逃げされた金を取り戻そうとする戦慄の過程を描くものがそれらの映画の王道でしょうか。『シンプル・プラン』は前者の方です。
 突き詰めると、金が絡むと人間はとことん醜くなり悪にもなりうるということ。一見まともそうな人間が変貌していくその様をじっくりご覧ください。

◆あらすじ

 家畜の飼料店で働くハンク(ビル・パクストン)は臨月の妻のサラ(ブリジット・フォンダ)とともに一応は安定した暮らしをしていたが、生活は苦しかった。
 大晦日、ハンクは40歳過ぎて無職の兄のジェイコブ(ビリー・ボブ・ソーントン)の運転で父の墓参りに行くが、兄の親友でやはり失業中の柄の悪いルー(ブレント・ブリスコウ)がついてくる。帰り道、兄の愛犬が森に入ってしまったのを3人が追いかけて行くと、墜落した小型飛行機が見つかる。パイロットは死んでいて、袋に入った440万ドルもの札束があった。
 初めはジェイコブとルーが黙って金をいただこうとしてハンクが止めていたが、犯罪がらみの金なら誰も捜しに来ないかもしれないと、ハンクが自分で預かると言い出す。しばらく様子を見て、誰か捜しに来たときは金を燃やし、誰も現れなければ山分けして町を出ようというハンクのプランに皆が乗る。
 ハンクは札束を自宅に持ち帰り、妻のサラに見せる。サラは大喜びするが、ある程度の金を飛行機に残しておいた方がばれにくいと言い出す。サラの言う通りハンクは翌朝兄を連れて出かけるが、たまたま行き会った知り合いの老人が飛行機のある方に行きそうになり、あせった兄が老人を殴って半殺しにしてしまう。最終的にハンクが老人を窒息死させ、遺体を橋の下に落とし、事故に見せかける。
 そんなとき、金は誘拐の身代金として準備されたもので、死んだパイロットは二人組の誘拐犯の一人だと推定できる新聞記事をサラが図書館で見つける。犯人の片割れが金を捜しているのではとハンクは恐れるが、サラは大丈夫だと言い張り、さらに老人殺しの罪をルーになすりつけようと言い出す。
 ハンクは兄のジェイコブに手伝わせてルーを老人殺しの犯人に仕立てようとするが、はめられたと知って頭に来たルーがハンクに銃を向ける。咄嗟にジェイコブがルーを撃ち殺し、半狂乱になったルーの妻が銃を手にしたためハンクに射殺される。ハンクは、ルー夫妻が喧嘩して撃ち合いを始め、それを止めようとしたという嘘を考え、兄にもそれを言い含める。
 ハンクたち兄弟は正当防衛が認められるが、何かあるたびにハンクが偽装工作をし、口裏合わせの指示をするのが兄には苦痛になってくる。
 そんなときハンクとジェイコブは、FBIの捜査官が行方不明の飛行機を捜しているので一緒に森を案内してほしいと、知り合いの警官から頼まれる。今度こそ金の横取りがばれると、金を飛行機に戻しに行こうとするハンクに、サラはFBIとやらは例の誘拐犯の片割れに違いないから行くなと主張する。
 翌朝、それを振り切ってハンクが警官・FBI捜査官と警察署から森に出かけようとすると、サラから電話が入る・・・。

◆雪原の生き物

 近くの牧場などを相手に飼料を売っているハンクの勤め先。大晦日、ハンクが作業場を片付けて帰宅しようとすると、画面右から猫がトトト、と走り出てきて、やや左奥の柱の根元でエサを食べ始めます。猫が出て来るのはこのシーンだけ。猫が出てきたからと言って面白くもおかしくもない13秒間ほどの映像が続きます。遠いのでよくわかりませんが、猫はシャムかヒマラヤンのような、耳や鼻先などが黒っぽい、鄙(ひな)には稀な美猫です。
 この映画では冒頭部分で猫以外にも生き物が何種類か出てきます。中でも一番目立っているのがカラス。タイトルバックで意外にかわいい横顔がアップになります。飛行機が落ちていたのは自然保護区で、人間があまり足を踏み入れないところ。町の人はそれゆえ飛行機の墜落に気づかなかったのかもしれませんが、カラスは死の匂いを嗅ぎつけたのか、群れて飛行機の周囲の木の枝にとまっています。墜落した飛行機の中に入ってみたハンクはカラスに突っつかれてしまいます。
 ハンクと兄のジェイコブ、その友人のルーがそんな森の奥まで行ったのは、鶏小屋のニワトリをくわえて逃げたキツネが車の前を横切り、ジェイコブの愛犬メアリー・ベスがキツネを追いかけて行ってしまったからです。
 この映画の動物で特に感心したのがこのキツネ。たまたま偶然に出てきたキツネではなく、演出通りの動きを狙って撮影されたものです。つまりトレーニングされたキツネ。獲物をくわえて適度な速さで走ってもらうためにどれほどの試行錯誤が繰り返されたのでしょう。そこを行くと飼料の作業場の猫さんはありのままで気楽そうです。
 猫が登場するのは開始から2分39秒頃。エンドクレジットでは動物トレーナーの名前は出ていますが、残念ながら出演した動物たちの名前は出ていません。

◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆人の道

 自然豊かなハンクたちの町。農業が中心らしく、働き口は少なそうです。しがない安月給でも定職があるハンクは恵まれている方で、働き盛りの兄とルーは失業中です。
 この映画のポイントは、「あらすじ」では拾いきれなかった登場人物のキャラクター。
 主人公のハンクは大学出で真面目、きちんとした生き方を大切にし、物事を知的に処理するタイプ。飼料店で家畜の餌を詰めたり、トンチンカンな客の応対をしたりなどの仕事には不服なはずです。兄やルーからは、気取っているとか偉そうだとか、お上品でインテリ臭いところをからかわれています。
 ハンクの兄のジェイコブは、吃音があり、学校時代から仲間はずれにされてきて社会的な適応力に少し欠けている様子。ハンクはそんな兄と事件の口裏合わせをするとき、子ども相手のように言い聞かせ、復唱させたりしています。ナイーブで独身、女性とキスしたこともなく、世間から孤立気味です。
 そんなジェイコブの唯一の友のルーは、下品で酒やギャンブルが好き、喧嘩っ早く、真面目なハンクとは正反対のだらしない男。ハンクの妻のサラからはたいそう嫌われています。
 そしてサラ。普段は図書館で働いていますが、生活費を稼ぐための雑用的な仕事のようです。ハンクたちが見つけた大金の出所を自分で資料を取り寄せて調べたりなど、頭の回転が速く、ハンクのすることに口出しします。見た目もきれいですし、自分に自信のあるタイプかもしれません。
 この主要な4人をそれぞれの役柄にピッタリの俳優が演じていて、特に主人公の兄のジェイコブ役のビリー・ボブ・ソーントンは出色。以前ご紹介した『ルームメイト』(1992年/監督:バーベット・シュローダー)で、ショートヘアのバリバリ起業家女性を演じたブリジット・フォンダは、一転してロングヘアの地味な妻。
 ハンクとサラは社会的には問題ない立場、ジェイコブとルーは落ちこぼれ、という図式になりますが、誰が人間として筋道が通っているかということになると、なんとも言えなくなってきます。

◆人間だもの

 440万ドルもの札束を目にしたとき、黙って持ち逃げしようとしたジェイコブとルーに対し、ハンクはばれたら3人とも刑務所行きだ、と止めます。けれども、子どもが生まれてお金がかかるためか気が変わり、ほとぼりが冷めた頃山分けして町を出るか、ヤバそうなら金を燃やして証拠を隠滅するというプランに二人を従わせようとします。
 妻のサラも初めは他人の金を黙って持ち逃げするのは法に触れると言っていたのに、札束を目にしたとたんに満面の笑み。悪知恵はハンクの上を行き、彼女の考えたプランに従ったハンクは老人を殺すはめになり、ルー夫妻を死なせてしまいます。まさに死を呼ぶ女。
 酔っぱらいのルーは借金を返すために分け前の一部を今すぐくれないかと言い出します。ダメ男の言いそうな事ですが、人間としてはもっともな申し出。ハンクはそれを拒んだばかりか、妻の指示で犯した罪をルーになすりつけようとするのです。ここはルーの肩を持ってやりたくなります。
 泣かせるのが兄のジェイコブ。ジェイコブはあの金を受け取ってもこの町を出て行かない、父が経営していて人手に渡った農場を買い戻し、ここで暮らす、と言い出すのです。
 兄さんには無理だと言い張るハンク。けれどもジェイコブは、父の農場経営が破綻したのも、ハンクの大学の学資が原因で、父は自殺して保険金を借金の返済に充てたと、ハンクには初耳のことを話します。ジェイコブはそんな父を愛していて、大晦日にルーと3人で父の墓参りをしたときも、少し前にジェイコブが供えた花が残っていたのです。
 金があれば結婚してくれる女性も現れるだろう、たくさん子どもを作る、家族で農場に遊びに来てくれ、と語る兄にハンクは何を思ったのでしょうか。
 罪を逃れようとウソを重ねるハンクを前に、ジェイコブは積年のわだかまりと良心の呵責に苦しみます。

◆440万ドル÷3

 陰で事件を複雑にしているサラ。金に目の色が変わった理由は単純です。夫の稼ぎの少なさに欲求不満がたまっていたのです。自分のように美人で頭がよければもっと条件のいい男とリッチな結婚生活を送れたはず、と現実にほぞを噛んでいたのでしょう。お金のかからない伸ばしっぱなしのロングヘア、安っぽい花柄の普段着。FBIの捜査官が現れ、飛行機に金を戻してくると言ったハンクを止めたときの彼女のセリフが振るっています。
「飼料店の店主が亡くなるまで昇給はおあずけなのか、
生まれたばかりの子どもの服もおもちゃもお古だ、
毎日8時間愛想笑いをして図書館で働き続けなければならないのか、
家に帰って作る食事は特売のものばかり、
レストランに行くのは特別な時だけ、行っても前菜は取らずデザートは家で」
とか・・・。
「それで私が幸福だと思っているの!」とは、それを言っちゃあおしまいよ、です。ならば汚い金でその欲求を満たすのは幸福か? と言えないハンク。

 まともな社会人のはずのハンクとサラが人間的には醜悪なエゴイスト。落ちこぼれの兄のジェイコブは清らかな人柄、ルーはダメ男ですが人間的と言えば人間的、ということに相成りまして・・・。
 「FBI捜査官」が飛行機の捜索に乗り出したあと、悲劇が兄弟を襲います。純粋なジェイコブは世の中についに居場所を見つけられなかったのか、自分とハンクに厳しい決断を下すのです。この映画の唯一の救いはジェイコブの人間性。雪の白さにすべての浄化を祈らずにはいられない幕切れです。

 

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