殺し屋としてトップの男がある日現れた若い殺し屋に妨害を受け、命を狙われる。若い殺し屋は誰の依頼で動いているのか?
製作:1995年
製作国:アメリカ
日本公開:1996年
監督:リチャード・ドナー
出演:シルヴェスター・スタローン、アントニオ・バンデラス、ジュリアン・ムーア、
アナトリー・ダヴィドフ、他
レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
◆◆ この映画の猫 ◆◆
役:☆☆(脇役級)
ハッカーの女性の猫
名前:パール
色柄:長毛のサバ白
◆新旧アクション対決
自らの書いた脚本で、売れない俳優だったシルヴェスター・スタローンが一躍スターにのし上がった『ロッキー』(1976年/監督:ジョン・G・アヴィルドセン)。彼も『暗殺者』の製作時には49歳に。1980年代に始まった「ランボー」シリーズなどで見せたアクションも、重荷になってきた年頃かと思います。
一方、スタローンの演じる殺し屋を狙う若い殺し屋役・アントニオ・バンデラスは『暗殺者』のとき35歳。スタローンがロッキーを演じたときよりは5歳ほど年上ですが、男性俳優としては色気も脂も乗り切った頃と言えるのではないでしょうか。
『暗殺者』は、このときの二人の俳優としての立ち位置を象徴するような映画です。アクション俳優として一世を風靡したスタローンの交代期。スペイン出身のアントニオ・バンデラスのセクシーな男臭さ。直前に出演した『デスペラード』(1995年/監督:ロバート・ロドリゲス)での彼の魅力とアクションが引き継がれ、ムンムンとラテン系のフェロモンを放っています。
現在のスタローンは老いが目立ち、また、バンデラスは油気の抜けた恬淡(てんたん)としたたたずまいとなって、この映画の頃とは違う人のような印象を受けます。
『オーメン』(1976年)、『リーサル・ウェポン』シリーズのリチャード・ドナー監督、ウオシャウスキー兄弟(姉妹)他の脚本による『暗殺者』は、これと言った特別な印象は受けません。メールを使った姿の見えない相手とのやり取りや、ハッカーといった当時の最先端を取り入れながら、最終的には主役二人の体を張った一騎打ち、女性が招くピンチといった昔ながらの類型に落ち着きます。見どころはやはり渋さの増してきたスタローンと、少し偏執的なキャラクターを演じる色気のバンデラスの新旧スター対決でしょう。
共演のジュリアン・ムーアは、若年性アルツハイマー病を発症する女性を演じた『アリスのままで』(2014年/監督:リチャード・グラッツァー、ウオッシュ・ウェストモアランド)など2000年代に入ってから数々の賞を受賞し、大御所の風格を備えてきましたが、この映画では口紅も鮮やかな女っぽさのにおう犯罪者。アントニオ・バンデラスとは同い年です。
今回は久しぶりに猫がたっぷり出て来る映画です。
◆あらすじ
ロバート(シルヴェスター・スタローン)はトップに君臨する殺し屋だった。殺しの依頼人は女性らしく、いつもパソコンに電子メールで連絡してくるが、ロバートは直接会ったことはなかった。ロバートは15年前に殺しの腕で一二を争う相手で友人のニコライ(アナトリー・ダヴィドフ)を自分の手で始末して以来、喪失感に悩んでいた。
次の案件を引き受けターゲットを狙っていたそのとき、若い男(アントニオ・バンデラス)がロバートより先に相手を撃った。若い男は警察から逃げる途中、ロバートが彼を捕らえるために強奪したタクシーを本物と思って乗り込む。男の名はミゲル。誰の依頼で狙いは何かをロバートが探ろうとすると、ミゲルはロバートのことを調べつくしており、あんたは一番になるためにニコライを殺したと言う。ミゲルはロバートを蹴落として一番の暗殺者になろうとしていた。ミゲルに撃たれそうになったロバートは彼を車から振り落として逃げ帰る。
殺しの依頼人もミゲルのことは知らないと言う。ロバートはこれが最後のつもりで次の依頼を受ける。ターゲットは猫の目のデザインのロゴマークを使う正体不明のハッカー。盗んだデータをバイヤーに売りつけようとしていて、依頼人からは彼らを殺してデータの入ったディスクを取り返せと指示される。
ハッカーは片時も猫を離さないエレクトラという女性(ジュリアン・ムーア)だった。エレクトラはホテルの部屋にバイヤーを呼び出すが、そこにミゲルが押し掛け、バイヤーを殺害する。一方、ロバートはエレクトラのいる部屋を襲う。ミゲルは無線機でロバートにエレクトラを殺せと促すが、ロバートは殺さずに車を運転させて彼女の家に連れ戻そうとする。途中でエレクトラは車から逃げ出すが、ロバートは彼女の居所を突き止める。ミゲルも彼女のアパートを探り当てる。ミゲルもまた彼女のディスクを奪おうとしていた。
ロバートとミゲルはエレクトラのアパートで撃ち合いになる。ロバートはガスに火を放ち、戻って来たエレクトラと逃げ出す。ミゲルもからくも脱出する。ミゲルはロバートと同じ殺しの依頼人から同じ依頼を受けていたのだ。
エレクトラは自分を助けてくれたロバートに次第に気を許す。ロバートはエレクトラからディスクを受け取り、依頼人にディスクは自分が持っていると伝える。依頼人は金の入ったアタッシェケースを使いに持たせ、ディスクと交換させるが、そのあとでアタッシェケースが爆発する。直前に気づいたロバートはアタッシェケースを捨てていて、一緒にいたエレクトラとも無事だった。エレクトラは勘が働いたのか、空っぽのディスクを渡していた。
ロバートはエレクトラと手を結び、データの入ったディスクを2000万ドルで渡すと依頼人にふっかける。依頼人は承諾する。そんなときミゲルは依頼人から次の仕事としてロバート殺害の注文を受ける。
ロバートとエレクトラは依頼人から振り込まれた2000万ドルを受け取るためカリブの銀行に向かう。そこは15年前、ロバートが向かいのホテルからニコライを狙撃した場所だった。いまは廃墟となったホテルにはミゲルが待ち受けていた・・・。

◆この猫いくら?
ジュリアン・ムーアの演じる天才的ハッカー・エレクトラはメス猫パールちゃんをこよなく愛する女性。身分証も持たず、本名すらまともに知らない天涯孤独の彼女の唯一の家族と言っていいパールちゃん、どこに行くにも一緒です。色柄はサバ白で、サイベリアンかノルウェージャン・フォレストキャットのようなフサフサの長毛種。エレクトラが出てくる場面にはほぼ一緒に登場します。
ハッカーのエレクトラがバイヤーから受け取る予定だった4万ドルで何を買おうとしていたかというと、パールちゃんの彼氏。パールちゃんもそのお相手も、お値段がいかほどかわたしは存じませんが、庶民が気軽に手を出せる金額でないことは確かでしょう。何しろパールちゃん、キャビアを食べさせてもらっているくらいですから。
「キャビアってロシア語で何ていうの?」とエレクトラが聞いたとき、ロバートは「たしかイクラだ」と答えます。まさかと思ってスマホの翻訳アプリで調べると本当でした! アクセントはロバートの発音通り値段の方の「いくら」に近いです。
初登場のとき、パールちゃんはラジコンのおもちゃのトラックに乗って遊んでいます。エレクトラはデータのバイヤーからお金を受け取る際、ホテルの通風孔にそのトラックを入れ、金をその荷台に入れさせたあとラジコンで操作し、自分の部屋の通風孔から受け取るようにしていたのです。ホテルの通風孔を使ってお金を移動する・・・と言えばコーエン兄弟が監督した『ノーカントリー』(2007年)。小柄な人なら通れそうな通風孔。アメリカの宿泊施設はどこもこんななのかと心配になってしまいますね。
さて、パールちゃんはただの飾りではなく、この映画の展開に大いに貢献しています。たとえばエレクトラがどこに住んでいるのかをロバートが突き止めるときは、彼女が置き去りにしてしまったパールちゃん入りのキャリーケースと、彼女の車の中にあったペットショップの袋から、そのペットショップにパールちゃんを連れて行って彼女の住まいを聞き出しますし、ミゲルが同じくエレクトラのアパートを探し出すときは、彼女が残したパールちゃんの写真の背景から場所を特定します。
そして、パールちゃんはロバートにすぐになつきます。こうしたとき飼い主はすこし嫉妬心に駆られながらも、愛猫が心を許す人になら自分も心を許してしまうのではないでしょうか。ロバートとエレクトラを急速に結び付けるのにパールちゃんの存在が一役買ったと言えるでしょう。
以前取り上げた『スペシャリスト』(1994年/監督:ルイス・ロッサ)でもタイマーという名の長毛の猫といい関係だったシルヴェスター・スタローン。分厚い胸板にはボリュームある猫が似合います。
◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆メールにご用心
『スペシャリスト』と比べると、『暗殺者』ではパソコンやネットワーク関係の格段の進歩が見られ、製作がちょうど1年違いとは思えないほどです。『スペシャリスト』では公衆電話回線を利用したパソコン通信が依頼者と主人公の通信手段でしたが、この『暗殺者』では電子メールにアップデート。とはいえ、ハッカーが盗んだデータを格納しているのが3.5インチフロッピーディスクというのはやはり時代を反映しています。衛星通信でたまたまデータを拾ったとエレクトラは言っていますが、3.5インチのディスクではデータ量はたかが知れたもの。
『暗殺者』が製作された1995年と言えばWindows95が発売され、パソコンやインターネットと一般人との距離がぐっと縮まった年。当時のディスプレイはブラウン管でしたし、パソコン本体にはフロッピーディスクドライブが標準装備でした。この映画は、その当時のまだコンピュータやネットワークにおっかなびっくりで近づきつつあった観客に、新しい形の犯罪を示して見せたと言えるでしょう。今なお相手がどんな人間かわからないままメールなどの詐欺に引っかかる人が絶えないのを見ると、技術の進歩は決して人間を幸福にするわけではないと思えます。
この映画でも、ロバートやミゲルの殺しの依頼者は正体不明。よくもまあこんな相手からの注文で人を殺すという究極のリスクを負うことができたなと思います。この時点で電子メールで依頼を受けていたとしても、15年以上も前から殺し屋だったロバートは以前は違う方法で注文を受けていたのだろうと思うと、メールで知らない相手とホイホイ取引する様子に、どうも納得がいきません。
おっと、ついリアリズムを求めすぎるのがわたしの悪い癖。映画なんだからそういうことにしておきましょう、という気になれないのが、この手のジャンルが苦手な理由かもしれませんね。
◆依頼人は誰
殺し屋稼業に空しさを覚え引退を考えるロバートと、俺が一番になるんだと鼻息の荒いミゲルの対決が初めはメインとなっていますが、謎の依頼人がミゲルを使ってロバートを亡き者にしようとしていることが次第に明らかになってきます。依頼人はなぜロバートを狙うのかが後半に入ってのもう一つの焦点です。
けれども、ミステリーやサスペンスに親しんでいる方々ならば、依頼人がロバートを狙っていることが明らかになった頃には、依頼人が誰かということはおおよそ見当がついていたのではないでしょうか。ここがこの映画の一番残念なところと思えます。このブログの決まりとしてラストがわかるようなことは申しませんが、合間合間にちょっとヒントが多すぎる気がします。ロバートとミゲルに同じ案件を同じように依頼しているということは、依頼人は同一人物だと簡単に推測することができますし、この映画のストーリー上、絞れるのはあの人・・・、となってしまうのではないでしょうか。
メールの向こう側の依頼人は女性らしいということはにおわされますが、メールならばどんな人間にもなりすますことができるということを掘り下げて、ロバート、ミゲル、観客を、もっと惑わせることもできたと思います。この映画の目玉はアクションで、ミステリーのような謎解きではないとは思いますが、観客の推測の一つ上を行く工夫がほしかったですね。スターが出ているのでちょっともったいない気がします。
ということで、『暗殺者』の見どころは、繰り返しますがスタローンとバンデラスの新旧対決、おまけでパールちゃんでした。
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