この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

必殺仕掛人

世の人の晴らせぬ恨みを代わって晴らす暗殺集団・仕掛人!
人気を集めたTVドラマの劇場版。

 

  製作:1973年
  製作国:日本
  日本公開:1973年
  監督:渡邊祐介
  出演:田宮二郎、高橋幸治、山村聰、野際陽子、川地民夫、他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    悪い女が飼っている猫
  名前:玉
  色柄:キジトラ(麦わら色)


◆必殺シリーズとは何か

 今回はTVドラマの人気を受けて劇場版として製作された映画です。
 人気のTVドラマといっても、この映画は53年も前の作品ですし、元になったシリーズ「必殺仕掛人」は1972年9月から1973年4月の放映。以後「必殺仕置人」など、「必殺シリーズ」と呼ばれたTVシリーズの最終版「必殺仕事人2009」は2009年6月26日が最後の放送だったということなので、それから数えてもすでに17年。聞いたことはあるけれど実際に見たことはないという方もかなりいらっしゃるのではないでしょうか。 実はこのわたくしも、TVを含めて「必殺シリーズ」は一度も見たことがありません。
 この映画のことを知ろうと思ってウィキペディアや製作の松竹のサイトを見ても、「TVと違って…」というような書き方がしてあり、前提となるTV版の知識が皆無だとお手上げ。そこで今回は「初めての必殺」をテーマにこの映画をご紹介させていただこうと思います。「いまさらこんなこと」「勉強不足」とおっしゃる必殺ファンの渋面もちらつかないわけではありませんが、製作から半世紀以上もたった今、こうしたアプローチも必要ではないか、と。
 TVの必殺シリーズは37年もの長きにわたって放映されているので、そのシリーズ全体を俯瞰することはせず、あくまで映画『必殺仕掛人』とその公開前後に限らせていただくことにします。なお、TVシリーズそのものについてはウィキペディア等に詳細な記述がありますので、そちらをご参照ください。わたくしも参考にさせていただきました。
 前口上が長くなりましたが、「仕掛け」というのは暗殺のこと。世のため人のため殺しを金で請け負う暗殺者たちが主人公。池波正太郎の『仕掛け人・藤枝梅安』などの時代小説をベースとしています。

◆あらすじ

 江戸時代、今の東京・上野近辺が舞台。
 鍼医者の藤枝梅安(ふじえだばいあん/田宮二郎)は、商売道具の鍼を必殺の技とする仕掛人。元締めの音羽屋半右衛門(山村聰)の指示で仕掛けを行う実行役だ。仲間には浪人の西村左内(高橋幸治)がいて、武士らしく刀で仕掛けるが、妻子のいる左内は表向きは刃物の研ぎ師として生計を立てている。千蔵(津坂匡章)という若い者は主に使い走り。梅安の友人で年かさの徳次郎(浜田寅彦)は、梅安が個人的に仕掛けを手伝ってもらう助っ人だ。
 梅安は、大きな問屋の後妻におさまった女が主人を殺して身代を奪おうとしていたのを、当の主人からの依頼で殺す。終わってから梅安は徳次郎と温泉で疲れを癒していたが、徳次郎が一人になったとき、殺された女とつるんでいた孫八(川地民夫)という悪人が徳次郎を殺す。
 孫八は、下谷、上野の顔役で香具師(やし)の元締めの三洲屋平十(三松の親分)の子分で、その後添いで岡場所の女将のお吉(野際陽子)とも通じていた。老い先短い三洲屋が死ぬのを待って、その縄張りを二人でいただこうというのである。お吉は少しずつ三洲屋に毒を盛っていた。
 そのころ西村左内には八丁堀の同心の峯山又十郎(室田日出男)から町方同心にならないかと誘いがあった。それには支度金・口利き料として三十両の前金を納める必要があるという。だが又十郎は立場を利用して町人などから袖の下をせしめたり、三洲屋の裏稼業の岡場所や賭場を目こぼしする代わりに金をむしり取る悪徳同心だった。
 臨終の床に就いた三洲屋は、弟分の聖天の大五郎(三津田健)に峯山又十郎の仕掛けを音羽屋に頼んであると話す。聖天の大五郎は音羽屋に赴き、三洲屋亡きあと不穏な動きをするであろう孫八の仕掛けも依頼し、三洲屋の島を守りまじめな跡取り息子の為吉(森次晃嗣)の後ろ盾になって働くと語る。音羽屋は左内に又十郎の仕掛けを任せ、梅安は孫八とお吉がつるんでいたことを知る。
 三洲屋が亡くなり、跡取りの為吉は裏稼業をやめようとしていたが、峯山又十郎とグルになった孫八に妨害され傷めつけられる。
 梅安は孫八に加えてお吉も仕掛けるよう指示を受ける。まずはお吉の仕掛けに出向くが、仕掛人だと感づかれて川に放り込まれてしまう。千蔵に助けられた梅安は、孫八とお吉が情事の後に眠っていたところに忍び込み、二人を殺す。西村左内も峯山又十郎を斬る。
 三洲屋をめぐる騒動はこれで治まるかと思われたが、聖天の大五郎は初めから自分が三洲屋の縄張りを横取りするつもりで孫八らの仕掛けを音羽屋半右衛門に依頼しており、跡取りの為吉も殺してしまう。だまされたことに気づいた音羽屋は、跡目におさまった聖天の大五郎を自ら手にかけて殺す。
 騒ぎはようやく落ち着いた。だが、梅安にはひとつ気にかかることがあった…。

◆悪女と猫

 この映画に登場する猫は、三洲屋平十の後妻の悪女お吉がかわいがっている玉。
 下谷・上野あたりの土地の顔役である三洲屋は、表看板は香具師を束ねる元締め。その陰で幕府非公認の私娼窟である岡場所、土場(どば)と言われる博打場などの闇商売を行っていたわけですが、後妻のお吉はその岡場所の女将。腹黒いお吉の飼っている玉は、腹黒ならぬ麦わら色のキジトラ猫。
 最近聞くようになった麦わら猫というのは、厳密な定義はないようですが、キジトラのように黒っぽい縞模様が入り、ベースの毛色は明るめの茶色と黒が混じると言われているようです。一般的なキジトラより枯れ草色のような印象のものが麦わら猫と呼ばれているようですが、私は麦わら猫はキジトラの色のバリエーションの一つと思っています。ですから、ここでは麦わら色のキジトラと書かせていただきました。ただし、麦わら猫は三毛、サビ(ニ毛)と同じようにほとんどがメスらしいので、厳密にはキジトラと分けて考えなければならないのかもしれません。

 お吉は普段は三洲屋本宅の方にはいず、岡場所で生活しています。玉はそこでとてもかわいがられています。
 ある雨の夜、玉の姿が見えなくなり、お吉が「玉、玉!」と捜しながら裏の戸を開けると向かいのひさしの下に梅安が立っています。梅安はお吉の仕掛けに出向いてチャンスをうかがっていたところです。懐には玉の姿。
 お吉と目が合い「お宅の猫ちゃんですか?」と問う梅安。「猫ってやつは濡れるのが嫌いでね、私と一緒に雨宿りしていたんですよ」と話し出します。
 お吉に猫を返すと、お吉は「雨がやむまで上がって」と梅安に愛想を言います。梅安は自分は鍼医者だと話し、お吉の日頃悩んでいる症状を言い当てると、お吉は梅安にその場で治療を申し込みます。玉を抱いて治療しながら世間話をするうちに、梅安もお吉も親兄弟に縁がないということがわかり、先生と気が合いそうな気がするよと、お吉は少ししんみりします。梅安は背後で必殺の鍼を用意。そこに孫八が子分とやってきて梅安をふんじばると、お吉は玉を抱きながら「銭を持たないで上がったやつは簀巻き(すまき)にして川に放り込むのが女郎屋のきまり」と言い捨て、梅安はその通りにされてしまうのです。
 初対面の梅安に上がれとか、その場で治療を申し込むとか、悪女の割には甘いところのあるお吉ですが、梅安の正体がわかるとたちどころにクールに。いっときいい顔をしたのは玉を大事に扱ってくれた感謝の気持ちからか、梅安がちょっといい男だったからか、それとも梅安と育ちの似ている他生の縁を感じたゆえなのか。
 玉は、初登場の26分38秒ごろから、野際陽子演じるお吉とともに何度も登場。不幸な生い立ちから人間不信のお吉が唯一気を許したのが猫。お吉が絶命したときもそばに寄り添っています。

◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆仕掛けの掟

 映画の冒頭、仕掛人とはいかなる存在かを述べる筆文字の文章が画面に現れ、晴らせぬ恨みを晴らし…と音羽屋半右衛門の山村聰が読み上げる声がかぶります。この演出はTVでも毎回流れていたようです。
 これによると、仕掛人とは人でなしを消し人の恨みを晴らすのが仕事。そして決して失敗はしない。
 世のため人のため、他人を踏みにじるような悪行をしている者を、依頼に基づき金銭で殺すことを請け負う商売。ただし、人さまのたった一つだけの命を頂戴する以上、依頼する客も元締めも掟を厳しく守ってこそ成り立つ稼業であり、聖天の大五郎のような仕掛人を欺く人間は、誰からの依頼がなくても始末する、という決まりになっているようです。つまり契約違反は命で償うというわけですね。おお、こわ。
 前金と成功報酬で、音羽屋が分け前を梅安や左内にどのように分配していたのかははっきりと描かれていませんが、かなりの大金が依頼者から納められています。音羽屋の表稼業は口入屋(くちいれや)と呼ばれる人足のあっせん業だとか。
 当然ながら仕掛人だと知られてしまえば成り立たない仕事なので、「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」や数々のスパイ映画のように、普段は市民生活に溶け込む顔を装っています。そうなると、音羽屋のところに依頼に来る人たちはどのようにして音羽屋が仕掛けの元締めだという情報を得ているのかが謎です。西村左内に至っては妻にすら仕掛人であることを悟られないようにしなければなりません。

◆主役の顔

 連続ドラマやTVシリーズ物は、登場人物の性格や役割や人間関係が固定化されることでファンも固定化され、映画化したとき一定の集客も見込めますが、主要な役を演じる俳優が異なったときは大きな賭けです。
 TVの「必殺仕掛人」では、藤枝梅安は緒形拳、西村左内は林与一が演じたとのことで、最も重要な仕掛人本人が映画とTVでは異なることになりました。TVドラマに親しんだファンにとっては、当然どっちがよいかという話になるでしょう。
 TV版を全く見たことのない私がどう思ったかと言うと、西村左内に関しては、高橋幸治には表に少々殺気が見えるのに対し、林与一の方は貴公子然として、人も殺さぬタイプに見えたのではないかと思います。つまり、仕掛人らしい高橋幸治と、仕掛人らしくない林与一。
 一方、映画版藤枝梅安の田宮二郎とTV版の緒形拳ですが、これは緒形拳の梅安を見たことがない私でも、緒形拳にすっと軍配を上げたいと思います。なんと言うか、緒形拳の持っている柔和な部分が、惹きつけるのです。仕掛人の正体を隠して町で鍼医者として活動する梅安。接客業でもあります。人気がなければ次は呼ばれない商売。そこに緒形拳のちょっとニコニコっとした顔がぴたりとはまる気がするのです。田宮二郎は悪くはないのですが、少々愛嬌が足りない。悪役タイプに見えるんですね。
 TVで緒形梅安ファンになった人には不満だったのか、ほかの事情もあるのかもしれませんが、続いて作られた2本の必殺仕掛人シリーズ映画『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』(1973年/監督:渡邊祐介)『必殺仕掛人 春雪仕掛針』(1974年/監督:貞永方久)ではTVと同じく緒形拳が梅安、林与一は小杉十五郎という浪人を演じていて、西村左内は登場しません。

◆見えない縁

 さて、藤枝梅安の「藤枝」ですが、これは駿府(今の静岡県)の藤枝出身であることに由来しています。梅安は徳次郎と温泉に行ったとき、子どものころに母親に捨てられ、4つ違いの妹だけ母親が連れて行って生き別れになったと話します。母親は男にだらしがなく、妹もどこでどうしていることかと言っていた梅安。
 孫八とお吉が眠っているところを、濡れた和紙で鼻と口をふさぎ、長い鍼で延髄を刺して仕掛けた梅安は、そのときのお吉の目が別れたときの母親の目を思い出させると、三洲屋の件にけりが付いた後も一人沈んだ表情になるのです。
 お吉は以前、孫八を相手に自分は藤枝の出身で、母に連れられ兄と生き別れになったと話をしていたことがありました。お吉は梅安の妹と察せられるわけですが、こういうところはいかにも時代劇らしい。

 「必殺」のヒットで、濡れた和紙や鍼で人の命を奪えるかどうかも話題になりました。ネットを見るとそれについて考察した記事がいくつか見られます。鍼は別として、濡れた和紙については冷たい紙がちょっとでも顔に触れた時点で飛び起きてしまうのではないかと思うのですが、和紙は直接絶命させるためではなく、起き上がらせて延髄を刺すために補助的に使われたのかもしれませんね。

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