野球チームのオーナーが、猫に莫大な遺産を相続させて巻き起こる大騒動。アメリカの爆笑野球コメディ!
製作:1951年
製作国:アメリカ
日本公開:未公開
監督:アーサー・ルービン
出演:レイ・ミランド、ジャン・スターリング、ジーン・ロックハート、他
レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
◆◆ この映画の猫 ◆◆
役:☆☆☆(主役級)
野球チーム・ブルックリンのオーナー兼守護神
名前:ルバーブ
色柄:茶トラ
その他の猫:野球の観客の猫シュー・リンほかメス猫2匹、
その他子猫、おとな猫多数
◆球春の訪れ
プロ野球もオープン戦が行われ、春のセンバツ高校野球開幕も間近と、いよいよ野球シーズン到来。昨年は大リーグ・エンジェルスの大谷翔平選手が二刀流の大活躍、今年の活躍も楽しみです。今シーズンこそコロナの流行もおさまって、球場で大きな声で応援できますように。そんな願いを込めて、猫の大活躍する野球映画をお届けします。
◆あらすじ
アメリカの野球チーム・ブルックリンのオーナー、大富豪のT.J.バナー(ジーン・ロックハート)は、ゴルフ場でゴルフボールを走って奪い取る闘争心むき出しのノラ猫に注目していた。彼は低迷する自分のチームの選手に見習わせたいと、部下のエリック(レイ・ミランド)にその猫を捕らえるよう命じる。エリックは600ドルもする捕獲器を買い、着ていたスーツをずたずたにしながらなんとか抵抗する猫を捕らえてT.J.の屋敷に連れてくる。猫はシャンデリアに飛び乗ったり大暴れ。T.J.は「自分はお前の味方だ」と猫に話しかけ、ルバーブと名付けてかわいがる。
ほどなくT.J.は亡くなるが、わがままな一人娘のマイラには小遣い程度しか残さず、莫大な遺産の大半をルバーブに相続させたので、世界中の新聞の一面を飾る大騒ぎに。ルバーブはブルックリンのオーナーとなり、遺言でエリックがルバーブの後見人になる。
ブルックリンの選手たちは猫に飼われているとからかわれ、初めは不満だったが、エリックがルバーブは幸運をもたらす猫、と選手に思い込ませ、試合を観戦するルバーブに触れた選手がヒットを連発。チームの成績も上がり、ルバーブはますます世間の注目を集める。一方、エリックはシーズン中ルバーブのそばを片時も離れることができず、婚約者のポーリー(ジャン・スターリング)となかなか結婚式も挙げられずにいたが、ポーリーが猫アレルギーと判明、さらにお互いの距離を空けなければならなくなった。
T.J.の娘のマイラは、ルバーブの遺産相続をめぐって訴訟を起こすが失敗。ブルックリンはついにワールドシリーズでニューヨークと対決することになり、賭けでは圧倒的にブルックリンが人気。賭博の元締めのギャングたちがブルックリンの勝利で損することを恐れ、エリックとポーリーが結婚式を挙げているすきにルバーブを誘拐してしまう・・・。
◆その猫、凶暴につき
ガオー、ガオー、と吼えるMGM映画のライオンも真っ青、「フギャァー!」と叫ぶルバーブのアップ。その凶悪な顔、みなぎる殺気。映画の冒頭、散歩中の犬が猫に襲われて逃げ出すという、ストーリーと直接関係ないエピソードが挿入されますが、怒り狂った猫にとって犬なんか敵じゃない、というのは多くの人が見聞きしているでしょう。
『ティファニーで朝食を』(1961年/監督:ブレイク・エドワーズ)、『エイリアン』(1979年/監督:リドリー・スコット)、『ハリーとトント』(1974年/監督:ポール・マザースキー)など、アメリカ映画では茶トラの猫が登場するものが多いですが、ルバーブも茶トラ。レッドとかオレンジとか言われる茶トラですが、『守護猫神ルバーブ』では、黄色と表現されています。代役を立てる都合上、色柄で個体の見分けがつきにくい茶トラが選ばれるのだと思いますが、この映画ではストーリーにもそれが反映されます。
T.J.の娘マイラが、父が相続させたルバーブは死んでおり、いまルバーブとされている猫は替え玉である、本物のルバーブが死んだ以上、遺産は自分のものである、と訴訟を起こすのです。マイラ側は裁判で、ルバーブそっくりの茶トラの猫を3匹用意、そこにルバーブを混ぜて、どれが本物のルバーブか見分けさせようとします。被告側は確信が持てず、2日後に再び審理が行われたとき、ポーリーのアレルギー反応が、ルバーブの環境由来であることが決め手となり、ルバーブは本物と証明されるのです。実際は、日常接している人に見分けがつかないことはないはずですが、あまり近くで映っていないモノクロ画面の4匹のトラ猫は、なるほどそっくり。IMDbによれば、ルバーブ役の猫は14匹用意されていたそうです。
映画の中でも説明されますが、「ルバーブ(rhubarb)」というのは、野球の試合で判定などを巡って繰り広げられる口論や小競り合いを言う俗語とのこと。凶暴なノラ猫だったルバーブが、その名をT.J.にもらって、おとなしくゴロゴロ喉を鳴らすところが顔に似合わず可愛らしいです。
◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆
◆私を野球につれてって
子どもから大人まで楽しめる、こんなに面白い映画が日本未公開とは。原題は『Rhubarb』。典型的なアメリカ流コメディに、憎らしくてかわいい猫、アメリカ映画で一ジャンルを成している野球もの、と、娯楽的要素が満載です。ロマンスが組み込んであって、カップルが結婚にこぎつけるまで山あり谷あり、というのもこうした映画の王道でしょう。
野球発祥の地アメリカでは、今はアメリカンフットボールやバスケットボールの方が野球より人気があるようですが、野球は、投げる方、打つ方、次の一球までの間、相撲の仕切りのように時間があり、守る側も攻める側も観客も、様々に思いをめぐらせ、映画的心理描写に向いたスポーツです。スピーディなスポーツが好きな人は、野球のその間延びしたところが嫌いなようですが、野球観戦というのは、そのダラダラも含めたレジャーなのだと思います。大リーグで地元チームが7回の攻撃に入る前に観客によって歌われる「私を野球につれてって(Take Me Out To The Ball Game)」という歌の、「ピーナッツとクラッカージャック(スナック菓子)を買ってよ」「家に帰れなくたっていい」などという歌詞が、野球観戦のレジャー性をよく物語っています(そもそも、歌うこと自体がレジャー的ですね)。
この映画で言えば、バッターがバッターボックスに立つたびに験を担いでルバーブをなでに行く、それを大喜びで観客が楽しんでいる、なでに行かないバッターには、観客が「なでろ~!」と叫ぶ、そんな牧歌的な光景はアメフトやバスケではありえないでしょう。
ちなみに、『私を野球につれてって』(1949年/監督:バスビー・バークレイ)というフランク・シナトラとジーン・ケリーが主演した野球ミュージカル映画も存在します。彼らは野球選手兼タップダンサーという、変則二刀流の役です。
◆絶体絶命
ブルックリンに勝たせてはならじと、賭博師のギャングたちに誘拐されたルバーブは、そのまま殺されるはずでしたが、ギャングたちはその前に一儲けすることを思いつきます。またしてもここでマイラ登場。「ルバーブが死ねば遺産が入るんだろう」と、ギャングはルバーブを始末するのと引き換えにマイラから謝礼として大金をせしめようと企てたのです。マイラがお金を用意するまで鎖につながれたルバーブは、ブルックリン対ニューヨークの最終戦を中継するテレビを見て、雷に打たれたように脱走を試みます。守護神としての使命を思い出したのか? 持ち前の闘争心に火が付いたか? いえ、実はもっと別の理由があるのです。ルバーブの運命は? チーム・ブルックリンの勝敗の行方は!?
◆God bless you!
ルバーブの後見人となったエリックを演じたレイ・ミランドは『失われた週末』(1945年/監督:ビリー・ワイルダー)のアルコール依存症の男の役で、アカデミー主演男優賞に輝いています。
相手役のポーリーのジャン・スターリングは、日本の女優で言えばちょっと桂木洋子似のかわいらしい感じ(え、桂木洋子? 古いですか?)。アレルギーでくしゃみをする演技がとても上手。この映画のためにずいぶん練習したのでしょうね。
映画が始まって20分もしないうちに亡くなってしまうT.J.を演じたのはジーン・ロックハート。ナチス・ドイツから逃れてアメリカに渡ったフリッツ・ラング監督の傑作『死刑執行人もまた死す』(1943年)で、チェコスロバキアに侵攻したナチスにチェコの対独レジスタンスの情報を流して、挙句の果てナチスに殺されるチャカという名の男の役を好演しています。祖国を裏切ったチャカが、いつのまにかレジスタンスたちによって濡れ衣を着せられ、じわじわと追い詰められていく、恐怖におびえた表情が忘れられません。ナチス・ドイツに抵抗するチェコ市民の勇敢な姿が心を打つ、実話に基づいたサスペンスです(まことに東ヨーロッパの人々の苦難は!)。
大谷選手の二刀流で「ベーブ・ルース以来の」と引き合いに出された野球の神様・ベーブ・ルースも『ベーブ・ルース物語』(1948年/監督:ロイ・デル・ルース)という映画になっています。彼が活躍したのはいまからおよそ100年前後も昔。「私を野球につれてって」は、それより前の1908年、和暦で言えば明治41年に作られた歌だそうです。
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