この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

このブログについて (はじめに)

 「猫が出てくる映画」を毎回1本、観客目線で紹介・批評するブログです。と言うと、猫の可愛さ・神秘性を堪能できる猫たっぷりの映画を期待されるかもしれません。このブログには、堂々主役を張る猫から、「あそこに出てる!」というくらい瞬間猫ショットの映画も多々・・・。というのは、「映画に出てくる猫について語る」のではなく「猫が出てくるという条件でピックアップした映画について語る」ブログだからです。
 映画について文章を書いて人に読んでいただきたい、と思いつつ、巨匠の名画のことをいまさらちょっと書いてみたところで誰も見向きもしないだろう、新作映画はSNS上で瞬時にレビューが飛び交う時代、無名の人間の批評なんて読む人いないよね、とモヤモヤする中、猫が出るとも知らずに見た映画に思いがけず登場する猫の姿に、猫好きとして喜びを感じていました。ストーリー上の必然もないのに、なぜ監督はわざわざこのシーンに猫を使ったのか・・・。私のように猫が隠れている映画を見つけたいと思っている人がいるのでは・・・。それがこのブログを書くことにしたきっかけです。
 「猫が出てくる」を条件に選ぶと、自分が普段あまり見ないジャンルの映画や、評論で取り上げられないような映画もまじってきます。選り好みせずに筆を執って、幅広い方に読んでいただけたらと思います。ただし、アニメは人間の都合で猫を自由に造形できてしまうという理由で、対象外とさせていただきます。
 あなたが猫好きでも、そうでなくても、ここで紹介した映画があなたにとって忘れられない一本になりますように。

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◆師匠からのメッセージ

 このブログの公開にあたり、映画について書くことの面白さに導いてくださった、映画評論界の重鎮・白井佳夫師匠から応援メッセージをいただきました。師匠は、東京・池袋の西武百貨店別館のカルチュアセンター「池袋コミュニティ・カレッジ」で、月2回、映画を見てディスカッションとレポート発表を行う「白井佳夫の東京映画村」を開講しております。見学もできますので、関心のある方はどうぞお越しください(TEL:03-5949-5488)。


 猫美人さんは、わたしが講師を務めた、東京芸大での特別講義や、池袋の東武カルチュアセンター(閉校)や、池袋コミュニティ・カレッジに引き継がれた『白井佳夫の東京映画村』の生徒の中で、特に切れ味のいい映画の文章の書き手で、その面白さは保証いたします。彼女のユニークな個性をじゅうぶん楽しんでください!」
                          映画評論家

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◆参考書籍
 『スクリーンを横切った猫たち』 千葉豹一郎著 2002年 ワイズ出版
 『ねこシネマ。』 ねこシネマ研究会編著 2016年 双葉社

イラスト担当:東洲斎茜丸

 

羊たちの沈黙

FBIの女性訓練生が難事件の解決のために接近した博士。捜査は不気味な彼の示唆によって進展していく。

 

  製作:1991年
  製作国:アメリ
  日本公開:1991年
  監督:ジョナサン・デミ
  出演:ジョディ・フォスターアンソニー・ホプキンス、スコット・グレン、
     テッド・レヴィン、他

  レイティング:PG-12(12歳未満には成人保護者の助言・指導が必要)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆(ほんのチョイ役)
    事件の被害者の猫2匹
  名前:不明(1匹はチーバー??)
  色柄:茶白、黒白ハチワレ


◆ワークパーソン

 昨2023年の12月に、働くおじさん・お兄さんの映画をご紹介しましたが、今回から数回にわたって働く女性の映画を続けて取り上げていきたいと思います。
 今も昔も、映画監督は男性が圧倒的多数。名監督の名画とされる映画を見ていても、これは男性から見た類型的な女性の描き方だなあと反発を感じたり、がっかりしたりすることがありますが、こちらも男性になったことはないのでお互い無理のないことだと思います。
 ここでは選んだ映画を楽しみつつ、そこに描かれた女性の働く姿から時代や社会が無意識に抱えているものを浮き彫りにできればと思っています。

◆あらすじ

 FBIの訓練生クラリスジョディ・フォスター)は、上司で大学の恩師のクロフォード(スコット・グレン)から指名され、女性を殺して生皮を剝ぐ連続殺人犯・通称バッファロー・ビルの心理を探るため、収監中の精神科医ハンニバル・レクターアンソニー・ホプキンス)に面会する。異常心理に詳しいレクターだが、彼自身も人肉食の犯罪を重ね、精神病院内の監房で厳重に監視されていた。薄気味悪いレクターは、クラリスを見ただけでそのバックグラウンドを見抜く天才的なプロファイリング能力を持っていた。卑猥でずけずけとした言葉を浴びせられながらも、クラリスはレクターからヒントを聞き出す。
 そんな折、バッファロー・ビルによる新たな被害者が出て遺体を調べると、喉の奥に特殊な蛾のまゆが押し込められていた。さらに上院議員の娘キャサリン(ブルック・スミス)が誘拐され、バッファロー・ビルの犯行と推定された。FBIクラリスを使って、バッファロー・ビルに関する情報提供と交換条件に、外の景色を見たいというレクターの願いをかなえる収監場所への移送を彼に提示する。しかし、監房でレクターを観察している精神科医チルトン(アンソニー・ヒールド)が功名を横取りしようと、独断でレクターを移送して上院議員と引き合わせ、レクターに犯人の手がかりを言わせようとする。対面は失敗、レクターは動物の檻のような牢に入れられるが、看守を罠にかけて脱走する。 
 クラリスは、最初の被害者に手がかりがあるというレクターからの示唆をもとに、バッファロー・ビルが何者かを突き止める。一方、上司のクロフォードも犯人を特定し、クラリスと電話で連絡を取って犯人の家に出動する。だが、そこはもぬけの殻だった。隠れ家は別にあった。クラリス上院議員の娘を救出しようと単独でその隠れ家を訪ねる。そこには一人の男(テッド・レヴィン)がいて、被害者の喉に詰められていたあの蛾の成虫が飛んでいた・・・。

◆猫たちの沈黙

 この映画に出て来る2匹の猫は、どちらも連続猟奇殺人犯バッファロー・ビルの被害者のペット。
 最初に出て来るのは、上院議員の娘・キャサリンの猫。彼女が一人で車を運転し、帰宅すると、車の音を聞きつけて2階の窓から茶白の猫が車を降りたキャサリンにニャーと呼びかけます。嬉しいお出迎えにキャサリンは猫の名前を呼んで家に入ろうとします。この時、名前がジーバーかチーバーと聞こえるので、この猫をチーバ君と呼ぶことにしましょう。
 そのときキャサリンは手をケガした男が車に荷物を積み込もうとしているのを見かけ、手伝ってやるのですが、その男こそバッファロー・ビル。彼はキャサリンをわざと荷台の奥の方に追いやり、手荒に閉じ込めて連れ去ってしまうのです。もちろん手のケガは彼の偽装。キャサリンを乗せて走り去る車を、チーバ君は2階の窓からなすすべもなく眺めています。
 もう1匹の猫は、最初の被害者の女性の家で飼われているグレーと白のハチワレ猫。クラリスがレクターのヒントをもとに、彼女の家に手がかりがないか調べに行ってその部屋に入ると、彼女がこの猫と一緒に撮った写真が飾られていたり、猫の置物があったりと、彼女が猫好きだったことがしのばれます。彼女がオルゴールの蓋に隠していたぽっちゃり体型のセミヌードのポラロイド写真をクラリスが見ていると、部屋の外でニャ~という猫の鳴き声が。主人の部屋のクラリスを、帰らぬ主人ではないかと呼んでみたのかもしれません。猫は少し寂しそうに見えます。
 猫はこの2ヵ所に添え物のように登場していますが、大活躍するのはプードルのプレシャス。女性の生皮を剥いでミシンで何やら作っているバッファロー・ビルが、目に入れても痛くないほど可愛がっている犬です。隠れ家の水の枯れた古井戸のような穴の底に閉じ込められたキャサリン。被害者たちはみなぽっちゃりタイプで、3日間絶食させて生かし皮膚をたるませたあと、殺してその皮を剥ぐというバッファロー・ビルに対し、キャサリンはプレシャスをまんまと人質ならぬ犬質にし、自分を井戸から出さないと犬を殺す、と脅します。そこにクラリスが助けに来るのです。
 プレシャスを演じた名犬はエンドクレジットにダーリーという名前が書かれていますが、猫たちの名はありません。たとえていうならプレシャスはストーリーにも絡むセリフのある役、猫たちはセリフのないただの脇役といった立場でしょうか。
 チーバ君が出て来るのは32分30秒頃、グレーと白のハチワレが出て来るのは88分30秒頃です。

◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆上司のお気に入り

 映画は、クラリス役のジョディ・フォスターが、林の中でロープをよじ登ったり、網に手足をかけて乗り越えたりと、FBI訓練生としての激しい肉体鍛錬をしているところから始まります。男性と同じメニューをこなし、同じトレーニングウェア、性別を意識しない環境。彼女は上司のクロフォードに呼ばれます。オフィスに向かうエレベーター、男性たちの中に乗り込んだ一回り以上小さいクラリスに、初めて女性だということが顕著になります。
 クラリスは大学時代クロフォードの優秀な教え子で、彼から能力を評価されているとは言え、まだ訓練生の彼女が大抜擢。残忍な連続女性殺人事件の捜査のヒントを得るために病的な精神科医ハンニバル・レクターを単身訪ねるという指令が与えられます。そしてクロフォードは「レクターが君に何かを語るとは思えないが情報だけはつかみたい、観察報告だけでもしてほしい」と言うのです。
 話の最初から腰を折っては申し訳ないのですが「こんな指示あるか?」というのが正直な感想です。天下に名だたるFBIの先輩方を差し置いて、一訓練生に何事も勉強だからとばかりにこんな任務を負わせるか? こんな無理やりな設定をするからサスペンスは・・・と言っていては始まらないので、話を先に進めましょう。

 これは上司がその女性を個人的に特別にかわいがっている、といううわさがささやかれてもおかしくないパターンです。当の女性は、上司と自分の間に男女という要素が影響しているかどうかなど考えず、与えられた職務に邁進します。しかし、ある日誰かから、あの上司はあんたに気があるんじゃないの? などと言われ、はっとしたりするのです。
 この映画でその誰かの役を担うのはレクターです。「クロフォードは君を好きで、君も彼を好きだ。だいぶ年が離れているけれど彼は君とセックスしたいと思っている」と、レクターはこの任務の裏に存在するものをそう推測しています。彼の卑猥な質問以外にも、他の収容者たちのクラリスへの露骨な性的関心、レクターの言動を監房で日々観察している精神科医のチルトンの、仕事が終わったあと一泊して食事でもという誘いや、クロフォードがレクターのところに女をよこすのは名案だというハラスメント的発言。被害者の喉に詰め込まれていた蛾のまゆの調査のために訪ねた研究者がクラリスを誘う「仕事以外の時間は何をしているの」という定番の質問。
 男も女もなく日々の訓練にいそしんでいたクラリスは、一歩現実に踏み出した途端、女性であることをいやでも認識させられます。こんなふうに、社会に出て、男性との不平等や予期せず性的な関心を持たれることへの忍耐を経験した女性は少なくないはずです。

◆禁を破る

 バッファロー・ビルを追うFBI捜査官候補生としてのクラリスの仕事ぶり、その捜査に重大なヒントをもたらすキーパーソンとしてのレクター、クラリスの仕事を指揮しバックアップする上司のクロフォード、異常な性的志向を持つバッファロー・ビルの人格描写、といった柱が交差しながら進むストーリー。最もスリリングなのはもちろんクラリスとレクターの関係です。
 人肉食志向のある精神科医という、またもや無理やり感のあるレクターの設定ですが、レクターはクラリスの上司のクロフォードと対の関係と見ることができます。
 クロフォードはクラリスにレクターに会って来いと指示したとき、個人的な話はするなとクギを刺します。けれども、バッファロー・ビルのことを質問するなら個人的な話を聞かせろとレクターに交換条件を出されると、クラリスはクロフォードの禁を破って少しずつ彼に自分の出身地や家族、生い立ちなどを話してしまうのです。それは次第にサイコセラピーの様相を呈してきます。

◆三人の父

 彼女が語った幼少期の体験、早くに母が死に、父の手で父子一体というほどかわいがられて育ったこと、警官をしていた父が仕事で亡くなったこと、その後親戚の牧場に預けられ屠殺される子羊を助けようとしたこと、それらの経験がFBIという職務を選ぶ動機に結びついていること・・・。彼女は心の深層をレクターにさらすことによってレクターに導かれていきます。子ども時代の父への愛着、それを投影したかのような上司クロフォードとの師弟的な一体感、そしてそこに横槍を刺すかのようなレクターとの関係。クラリスはいわば三人の父親に導かれて現実社会の難事件に立ち向かうことになるのです。
 このとき、上司のクロフォードがあまり役に立っていないところが面白い。レクターに会って来いという指示を与えられた後、クラリスはクロフォードよりもレクターの言葉で現状を打破していきます。バッファロー・ビルの隠れ家に出動したときも、クロフォードはクラリスが当たりをつけた場所とは違うところに踏み込んで、彼女のためのヒーローになりそこねます。クラリスを一人前に育てたのはレクターだったと言えるでしょう。
 事件はレクターからのヒントを丁寧に読み解いたクラリスの活躍で解決。レクターの言うようにクロフォードがクラリスに男としての幻想を抱いていたかどうかはわかりませんが、このとき彼は訓練生を卒業したクラリスに握手を求めます。クラリスも笑顔で応えます。二人の間にしばしの情感が流れたようにも見えますが、事件を解決に導いた互いの健闘を讃える表情にすぐ切り変わります。そこに見られるのは上下や男女の関係を超えたフェアな精神です。

◆名誉ある悪役

 実際の映画では、移送先から逃げ出したレクターの常軌を逸した行動や、バッファロー・ビルの嗜癖、誘拐されたキャサリンを救出するクラリスの活躍などが見せ場ですが、ここでは女性としての主人公クラリスに焦点を当ててみました。メインとなるドラマ展開は実際の映画を見て楽しんでください。アカデミー監督賞、主演男優賞、主演女優賞など5部門を受賞した大ヒット作。作り物でない自然な知性を感じさせるジョディ・フォスタークラリス像には、誰もが好感を覚えるのではないでしょうか。
 バッファロー・ビルの性的嗜癖の描き方や、変態する蛾が彼の変身願望の表れだとするあてはめなどに、ひと時代前の匂いを感じるものの、レクター博士を演じたアンソニー・ホプキンスの怪演にはいま見ても圧倒されます。ただ、気味の悪いレクター像の造形が完璧すぎたためか、ジョディ・フォスターアンソニー・ホプキンスをこわがって避けてしまっていたそうです(注)。それで続編の『ハンニバル』(2001年/監督:リドリー・スコット)への出演を断ってしまったのでしょうか。私もこれ以来アンソニー・ホプキンスを見ると、レクターを思い浮かべてしまって落ち着かなくなるのですが。

 

(注)IMdB トリビアより

予告編 次回4月17日(水)公開予定

「この映画、猫が出てます」をご愛読いただきありがとうございます。

次回の作品は

羊たちの沈黙
 (1991年/アメリカ/監督:ジョナサン・デミ

猟奇的な連続殺人事件に挑むFBI女性訓練生。犯人の手がかりを示したのは異常な精神科医だった。

 

『トワイライトゾーン 超次元の体験』より 第2話

老人ホームの夜の庭に缶蹴りの歓声が響く。スピルバーグ監督の手掛けた短編ファンタジー

 

  製作:1983年
  製作国:アメリ
  日本公開:1984
  監督:スティーヴン・スピルバーグ
  出演:スキャットマン・クローザース、ビル・クイン、ヘレン・ショウ、
     マレイ・マシスン、イヴァン・リチャーズ、他

  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    老人ホームで飼われている猫
  名前:なし
  色柄:茶トラ

 

4月3日に発生した台湾東部沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

ミステリーゾーン

 以前、『グレムリン』(1984年/監督:ジョー・ダンテ)のときにこの『トワイライトゾーン』(以下同様に略記)の第4話、飛行機の翼に乗ってエンジンを破壊しようとする怪物を乗客が目撃するエピソードについてお話しさせていただきましたね。『トワイライトゾーン』は、1960年代に日本のテレビで『ミステリーゾーン』という邦題で放映された、1話完結の30分のドラマシリーズのうちのエピソードの4つをオムニバス映画化したものです。本国アメリカのTVドラマは1959年から1964年まで放送されたそうですが、その後リメイク版が何度か作られています。
 1960年代初めの日本のテレビ局は自前の番組がまだ少なく、よくアメリカから輸入したドラマやアニメを放映していました。戦争ものの『コンバット』、クリント・イーストウッドが出演していた『ローハイド』、いまもキャラクターを目にするアニメの『トムとジェリー』など、テーマ曲が頭を離れない人気シリーズはこれ以外にもたくさんありましたが、何年にもわたって繰り返し放映されたり、シーズンの中の1部が不定期に放映されることもあったりして、いったいいつからいつまで放映されていたのかよくわからないものもあります。そのおかげでいまの60歳代から90歳代くらいまでが、同じドラマのことで話が盛り上がったりすることもあるようです。
 今回取り上げる『トワイライトゾーン』の第2話は、アメリカで1961年9月からTV放映された第3シーズンの86話「真夜中の遊戯(原題:Kick the Can)」を、スティーヴン・スピルバーグ監督が劇場版にリメイクしたもの。劇場版『トワイライトゾーン』は、ジョン・ランディス監督とスピルバーグ監督が製作し、プロローグと第1話をジョン・ランディススピルバーグがこの第2話を、第3話を『グレムリン』のジョー・ダンテ、第4話を『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラーが監督しています。
 なお、このブログの『グレムリン』の記事で『トワイライトゾーン』のことをお話ししたときに、第1話から4話までの邦題を紹介しましたが、この題はテレビ版に付けられていたもので、劇場版には付けられていませんので、この記事では省略いたします。

◆あらすじ

 老人ホーム「太陽の谷」では、今日もお年寄りたちが判で押したような生活を送っていた。その日、入居者のコンロイ氏(ビル・クイン)が表で遊んでいる子どもの声がうるさいと言い出したのをきっかけに、みんな子どもの頃の遊びの話をし始める。最近ホームにやって来たブルーム(スキャットマン・クローザース)はもっぱら缶蹴りで遊んでいたと言い、今晩、ホームの庭で缶蹴りをしないかとみんなを誘う。
 「規則違反だ」「転んだら起き上がれない」と、コンロイ氏は参加しないことにしたが、他のみんなは夜中にベッドを抜け出してブルームを鬼に缶蹴りを始める。
 大はしゃぎで庭を走っていたお年寄りたちは、気が付くと缶蹴りで遊んでいた頃の子どもの姿に戻っていた。ブルームだけは老人のままだった。
 ブルームがお年寄りたちに向かって、また子供に戻って人生をやり直すのだ、と言うとお年寄りたちは困惑する。心は子どもで、体は今のままでいい、と口々に言って、寝ているコンロイ氏の寝室に忍び込む。目覚めたコンロイ氏が子どもになったみんなに驚いて職員を呼んで来ると、みな元のお年寄りの姿に戻っていた。
 翌朝から「太陽の谷」ホームは一変する・・・。

◆猫も変身

 物語の始め、ホームの入居者が集まって、ビタミンの効能についての講義を聞いています。後ろの方の席では退屈でシャボン玉を吹いている人も。最前列に座っているのは、講師の話に笑ったりしてくれるありがたい聴衆・デンプシー夫人(ヘレン・ショウ)。開始から1分もたたないうちにその彼女が膝に茶トラ猫を乗せて講義を聞いているところが映るのですが、猫の姿は字幕に隠れてしまうので、気がつかないかもしれません。
 それからしばらく後に、ぼんやりと無表情に座っているおじいさんがこの猫を抱いているところが映ります。ホームのペットの猫。日本でも最近は入居者の心の健康のために動物を同居させたり連れてきたりするところが増えているそうですが、この映画が製作された40年以上前はまだそういう風潮ではなかったと思います。
 その猫好きのデンプシー夫人、夜中にホームの庭に集合したときも猫を抱いています。そして、みんなが子どもの姿に変わってしまったとき、この猫も子猫の姿に変わっているのです。当のお年寄りたちが70数年若返ったのだとしたら、猫はマイナス70年くらい若返って、子猫どころか存在すらしていなかったはずですが、まあタイムスリップしたわけではなく、猫も人間も同じ割合で若返ったということでしょう。そしてコンロイ氏が「部屋に子どもがいる」と職員を連れて来たとき、みんながお年寄りに戻っていたように、子猫は元のおとな猫に戻っています。
 最後に猫が登場するのは、終了からおよそ1分半前。デンプシーさんの仲良しの女性の孫が抱いています。みんな、いそいそと楽しそうに湖に出かけていくところです。

◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆空白の日々

 「“希望のない人生とはむなしいもの”とか」という冒頭の画面外からのナレーション。毎回ガイド役のナレーションで物語が始まるのが『トワイライトゾーン』の定番です。
 みんながビタミンの講義を受けている部屋の窓の外で、コンロイ氏はワイシャツにネクタイを締め、スーツケースを提げ、息子一家の家に行く支度をして待っていたのですが、息子夫婦は忙しいと言って挨拶だけして帰ってしまいます。それを窓から見ていたエイジー(マレイ・マシスン)は、コンロイは毎月同じことを繰り返していると、まだ「太陽の谷」に来て間もないブルームに説明します。入居者たちは、こうして代わり映えのしない日々を当たり前のように過ごしています。お迎えの来る日まで、未来に何も待ち受けるものがない人生・・・。何から何まで世話を焼いてもらえるけれど生き甲斐のない人生・・・。
 そんなとき、子どもの頃を思い出して、木登りが得意だったとか、体が動けばまたダンスを踊りたいとか、顔を輝かせるお年寄りたち。でも、いまは昔の物語とあきらめていると、ブルームが懐からピカピカ光る缶蹴りの缶を取り出すのです。「皆さんを子どもの頃に返してあげる」と。

◆老いた体でも

 英語でも「Kick the Can」と、そのまま日本と同じ「缶蹴り」ですが、映画を見ると遊び方もほとんど変わらないようです。「ガキどもめ」とみんなをバカにしていたコンロイ氏をしり目に、缶蹴りばかりでなく、いつのまにか海賊のいでたちになったエイジーさんと子猫を抱いたデンプシー夫人がダンスを踊ったりしています。老眼鏡が大きすぎてずり落ちている幼いデンプシー夫人の前歯は、永久歯への生え代わりのため抜けています。
 ところが、そんなみんなにブルームが言ったのは、子どもに戻って人生をリセットするのではなく、どうやら同じ人生をリピートするということ。辛かったことを繰り返すのは嫌だ、と言うみんなにブルームは言います。
「今夜の気持ちを持ち続けたら、目覚めたとき老いた体にフレッシュな若い心が戻っている」と。
 こうしてホームのお年寄りたちは、次の朝から若返った心で再び生き生きと人生を楽しみ始めるのですが、ただ一人、子どもになったまま帰ってこない人がいたのです。

◆明日は明るい日

 子どもの頃ダグラス・フェアバンクスに憧れて、彼のようにベッドに飛び降りたり、窓から飛び出したりしてよく骨折していた、と話していた伊達男のエイジーダグラス・フェアバンクスとは、どこかの銀行の偉い人のような名前ですが、『バグダッドの盗賊』(1924年/監督:ラオール・ウォルシュ)などで有名な100年前のファンタジー・冒険活劇の大スターです。私も断片的にしか映像を見たことがありませんが、ちょっとエッチなおじさん風。子どもに戻って上半身裸にマントを羽織ったエイジー(イヴァン・リチャーズ)の姿は、彼の映画のまねなのです。
 ところが、ほかのお年寄りたちが元の老いた姿に戻っても、エイジーだけは子どものままです。みんなが辛い人生を繰り返すのは嫌だと言ったのに、彼だけは自分は幸福だったと言って本当に窓から飛び出して消えてしまうのです。
 この物語が、お年寄りたちが子どもの心を思い出して生き生きと若返ったという終わり方だったら、ごく普通の寓話ですが、エイジーだけがどこかへ消えてしまったという謎めいたところが『トワイライトゾーン』ならでは。
 そしてこのエピソードにはまた別のオチが待っています。それはぜひご自分で見て確かめてください。

 子どもの頃怖がりだったので、逆に妹たちを怖がらせて楽しんでいたというスピルバーグ監督(注)、子どもを生き生きと描くことにおいては彼の右に出る人はいないのではないでしょうか。
 缶蹴り遊びが始まると、自分も一緒に遊んでいるかのようなドキドキ感に襲われます。『E.T.』(1982年)や『インディ・ジョーンズ』シリーズや『ジュラシック・パーク』シリーズなど、スピルバーグ監督の映画に登場するたくさんの子どもたち。それらの映画を見ていても、いつの間にか自分が子どもたちの側になって驚いたり怖がったりしていることに気づきませんか? それはスピルバーグ監督自身がいつまでも子どもの心を持ち続け、子どもになって面白がっているからだと思います。このエピソードのブルームのように。
 スピルバーグは、このエピソードの監督をするのは自分だと初めから決めていたのではないでしょうか。そして、監督の若い頃の写真を見ると、消えてしまったエイジーを演じた少年俳優と、とてもよく似ているように思えるのです。

◆超次元の体験

 最後に『トワイライトゾーン』の、まだお話ししていない残り2つのエピソードについて簡単にお話しします。
 第1話は、人種差別意識の強い男が酒場でユダヤ人や黒人や東洋人の悪口をまくしたてて表に出ると、そこは第二次大戦中のナチスが占領していたフランス。彼はユダヤ人としてドイツ兵に追い詰められ、気が付くと今度は黒人としてKKK団にリンチに遭い、川に逃げ込むとそこはベトナム戦争中のベトナムで、アメリカ兵に撃たれそうになる、というもの。
 主人公を演じたビック・モローは、1960年代のTVドラマ『コンバット』でサンダース軍曹役を演じ、日本でも人気でしたが、このベトナムの場面の撮影中に事故により亡くなってしまいました。以前紹介した『ルームメイト』(1992年/監督:バーベット・シュローダー)で異常なルームメイトを演じたジェニファー・ジェイソン・リーは、彼の娘です。
 第3話は、車で一人旅をしていた女性が男の子の自転車に車をぶつけ、家に送っていくと、男の子は超能力の持ち主で、家族を支配して姉をアニメの中に閉じ込めたりしてしまう話。
 男の子の家でみんなが見ているTVも、1960年代の日本でおなじみだった『ヘッケルとジャッケル』などのアニメ。この映画が1960年代のTV番組を土台に構成されているということがそれらによって再度浮かび上がり、タイムスリップしたような感覚、と言うより、トワイライトゾーンの扉を開けてしまったような感覚に襲われます。

 最新版『トワイライトゾーン』は2019年から2020年にアメリカでネット配信が開始され、リリースの方法も物語の内容も現代風にアップデート。我が家では『トワイライトゾーン』よりもう少しオカルト色の強かった『世にも不思議な物語』(原題:One Step Beyond)を好んでいたのですが、どちらも今ではネットやソフトなど、多様な方法で好きな時に見ることができるようになりました。こんな時代が来ようとは、あの当時思いもしなかったなあ・・・。

 

(注)『スピルバーグ!』(TVドキュメンタリー/2017年/監督:スーザン・レイシー)より

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