この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

グレムリン

かわいいペットも飼い方を誤ると・・・。一つの町を壊滅させた怪物はクリスマスにやって来た!

  製作:1984
  製作国:アメリ
  日本公開:1984
  監督:ジョー・ダンテ
  出演:ザック・ギャリガン、フィービー・ケイツ、ホイト・アクストン、他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    ディーグル夫人の飼い猫
  名前:マルク、コペイカ、ドルなど、5匹くらい
  色柄:茶トラ、白茶ブチ、黒など


◆1年の終わりに

 クリスマス、お正月と、子どもたちにはおねだりのできる季節。この映画では、おとぎ話によくあるように、決まり事を守らないととんでもない災厄が降りかかる、という教訓が描かれています。あれほしい、これほしい、とわがままいっぱいの子どもには、クリスマスやお正月が近づく前、大人が大掃除や年末年始の準備でかまってやれないときにこのビデオを見せて、「プレゼントやお年玉をもらったら、これこれの決まりを守るって約束しようね」と話してはいかがでしょう。毎年一緒に見て「約束守れたかな」と、1年の振り返りをするのもいいですね。

◆あらすじ

 自分の発明品のセールスと息子のビリー(ザック・ギャリガン)へのクリスマスプレゼント探しでチャイナタウンを訪れた発明家のランド・ペルツァー(ホイト・アクストン)は、とある骨董屋で中国人の老人の飼っているかわいい生き物を目にし、ビリーへのプレゼントに売ってくれるよう頼む。老人は売り物ではないと断るが、老人の孫がお金に困ってその生き物・モグワイをこっそりランドに売り渡す。明るい光が嫌いで日光は死をもたらす、水に濡らさない、真夜中過ぎに食べ物を与えない、の3つの注意を少年はランドに伝えた。
 帰宅したランドがビリーにモグワイをプレゼントすると、ビリーも母(フランシス・リー・マッケイン)も大喜び、ギズモ(新製品)と名付ける。
 クリスマスツリー売りの男の子がビリーの家にやって来てギズモを見せたときに、あやまってギズモに水をかけてしまったところ、ギズモの背中から毛玉が5つ飛び出して、そこから次々にモグワイが誕生する。
 ギズモはいい子だが、ほかのモグワイたちはわがまま。夜、空腹を訴えてうるさいので、ビリーが真夜中まで間があるのを確かめてチキンをやると、ギズモ以外のモグワイたちは貪り食ったあげく不気味なまゆのようなものを作って閉じこもる。実は食べ物欲しさにモグワイたちが時計を壊していて、食べたのは真夜中過ぎだったのだ。

 モグワイたちはまゆから孵化すると、邪悪なグレムリン(小悪魔)に変わっていて、食べ物を盗み、物を壊し始める。母とビリーがやっつけるが、リーダーのストライプは家から逃げ出してプールに落ち、大増殖してしまう。
 ビリーはガールフレンドのケイト(フィービー・ケイツ)とともに町中で大暴れするグレムリンを退治しようと、グレムリンたちで座席がいっぱいに埋まった映画館に潜入する・・・。

◆猫に通貨

 映画によく登場する金持ちの意地悪ばあさん。たいてい土地の有力者・権力者で、誰もこのばあさんに逆らうことができません。
 この映画のディーグル夫人(ポリー・ホリデイ)も、舞台となった町・キングストン・フォールズの不動産王で銀行を経営。ビリーはそこの窓口係として働いています。ディーグル夫人は銀行から借りたお金の返済を待ってほしいという女性の懇願を一蹴。ビリーの窓口まで来て、ビリーの飼い犬のバーニーがスノーマンの飾り細工を壊した、保健所に渡してやる、とまくしたて、カウンターの下にいたバーニーはたまらずディーグル夫人にとびかかって逃げ出します。
 そんなディーグル夫人でも猫は好きらしく、5匹ほど飼っていて各国の通貨の名前を付けているところが金の亡者らしい。足腰が弱っているのか、階段に電動昇降機を付けて座ったまま上り下りしているのもさすが金持ちです。ところが、グレムリンたちが猫用ドアから彼女の家に入り込んでその昇降機をイタズラし、猛スピードで上昇。窓を突き破って飛び出したディーグル夫人は雪に埋もれて昇天、いや、地獄に落ちたか。
 猫が登場するのは67分ほど過ぎたあたりです。
 猫役者たちの実名はわかりませんが、バーニー役の犬はマッシュルームという名前。その名がよく似合うほっこりしたわんこです。

  ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

      

グレムリン登場

 グレムリンとは、この映画のために創作されたものではなく、欧米の比較的新しい伝承で、機械類を故障させたり不具合を起こしたりする妖精なのだそうです。この映画のフッターマン(ディック・ミラー)という男性が、第二次大戦中のグラマン戦闘機もグレムリンに落とされた、と酔ってビリーとケイトに話します。合理性を尽くして磨かれたはずのテクノロジーにも原因不明の異常が発生する、その不可解さを想像上の存在によって埋めようとした人間の心の産物、俗信・迷信の一種でしょう。
 ギズモはグレムリンだと私も誤解していたのですが、そもそも中国人のおじいさんが飼っていた生き物がモグワイ、そのモグワイにビリーの家で付けた名前がギズモ。ギズモから分裂して誕生したモグワイが真夜中過ぎに食べ物を食べ、まゆを作って邪悪に変わったのがグレムリン、ということになります。

トワイライト・ゾーン

 『グレムリン』も『メン・イン・ブラック』(1997年/監督:バリー・ソネンフェルド)と同じくスティーヴン・スピルバーグの製作総指揮。そして、この映画の前年の、4話からなるオムニバス映画『トワイライト・ゾーン/超次元の体験』(1983年/スティーヴン・スピルバーグ製作)(注1)の第4話「2万フィートの戦慄」(監督:ジョージ・ミラー)にグレムリンの姿が描かれています。
 悪天候の中を航行する飛行機に乗った飛行機恐怖症の男が、翼に人のような怪物が乗ってエンジンを破壊するのを目撃し、パニックになる、というもの。そこでは「グレムリン」とは呼ばれていませんでしたが、その不気味な姿・心理劇的な緊迫感は強烈な印象を残しました。ジョージ・ミラーは『マッドマックス』シリーズの監督。この翼に乗った怪物の姿は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)の怪人たちに似ていなくもありません。
 『グレムリン』の監督のジョー・ダンテは、『トワイライト・ゾーン』で第3話の「こどもの世界」とエピローグを監督しています。

◆フッターマンの怒り

 ジョージ・ミラーの描いた飛行機を壊した怪物は『グレムリン』ではおとぎ話の主人公に変わります。
 モグワイは大きな耳が横に張り出し人間並みに手が器用で、つぶらな瞳でかわいい声で歌う抱き人形くらいの大きさの生き物。1970年代に爆発的な人気となったぬいぐるみ「モンチッチ」をちょっと思わせます。

 『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990年/監督:ジェリー・ザッカー)のときにも触れましたが、この映画の当時は日米貿易摩擦で、日本が輸出する電気製品や自動車がアメリカの国内産業を圧迫し、日米間に険悪な空気が流れていた頃です。フッターマンは登場早々、ビリーの自動車が動かないのを「外国製はダメだ」とこき下ろし、テレビがグレムリンのいたずらで見えなくなったときも「アメリカ製を買えばよかった」と、ぶつくさ。非難の対象になっている自動車もテレビも日本からの主要な輸出品でした。
 フッターマンは「外国人は機械の中にグレムリンを仕掛ける」と決めつけます。そもそもグレムリンは機械に潜んで悪さをする妖精ですから、日本が自動車や家電を輸出するということは、グレムリンを輸出しているのも同然。終盤、日本から輸入したのであろうラジカセやテレビが並ぶデパートの売り場で、グレムリンのリーダー・ストライプの顔がテレビ画面に一斉に映し出され、勝ち誇ったようにビリーを笑い飛ばします。憎むべき邪悪なグレムリンと日本が同一視されているようで、なんとも居心地の悪いこと。
 いい子のギズモの方は、保安官事務所で星条旗を手に持って得意げな顔。「アメリカびいきらしい」と保安官に喜ばれます。大増殖したグレムリンたちが集結した映画館で、ウォルト・ディズニーの『白雪姫』(1937年/監督:デヴィッド・ハンド)が上映されるのは、世界初の長編漫画映画(昔はアニメをこう呼んだ!)を誇り、同時にアメリカを賛美していると言えるでしょう。
 いまあらためてこの映画を見ると「アメリカを再び偉大に!」と叫んでいるあの人の顔が目にチラついてしまいます。

◆最後はほろりと

 最終盤のグレムリンとビリーたちの対決は大人には退屈ですが、その前の、ビリーの家でお母さんがキッチン用品を駆使してグレムリンと戦う場面は、へたなホラー映画も顔負けの戦慄の展開。キッチンって武器だらけなんですね。
 クラーク・ゲーブルがレーサー役を演じた『スピード王』(1950年/監督:クラレンス・ブラウン)をテレビで見たギズモが真似したり、お父さんの発明品の見本市会場に『禁断の惑星』(1956年/監督:フレッド・マクロード・ウィルコックス)のロボットがいたり、古い映画からの引用がたびたび登場するのは、三世代一緒に見て楽しめる映画を目指したのかもしれません。
 ビリーが見ていた怖そうな映画は『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(1955年/監督:ドン・シーゲル)。豆のさやのようなものから生まれた実在の人物そっくりのエイリアンに街が乗っ取られる、という未公開ホラーです(注2)。主人公が警告を発して叫ぶ緊迫のシーンが映りますが、これはグレムリンに襲われるビリーとビリーの街に対する予言的メッセージ。
 お母さんが料理しながら見ている『素晴らしき哉、人生!』(1946年/監督:フランク・キャプラ)は、クリスマスを舞台にした名画です。自殺しようとして天使の助けで思いとどまる男の物語。こちらは金持ちの意地悪じいさんが登場します。
 訳あってクリスマスが嫌いなケイトがビリーに、(アメリカでは)クリスマスは一年で一番自殺率が高い、と話しますが、事実かどうかはわかりません。華やいだ季節に辛いことがあると自分だけが不幸なように感じますが『素晴しき哉、人生!』のように、誰にも天使がついています。

 それでは、グレムリンのような邪気は払って、来る年が皆様にとってよき一年でありますように。

 

(注1)プロローグと第1話「偏見の恐怖」はジョン・ランディス監督、
    第2話「真夜中の遊戯」はスティーヴン・スピルバーグ監督
(注2)『SF/ボディ・スナッチャー』として1978年にリメイク。監督はフィリップ・カウフマン

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