この映画、猫が出てます

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『トワイライトゾーン 超次元の体験』より 第2話

老人ホームの夜の庭に缶蹴りの歓声が響く。スピルバーグ監督の手掛けた短編ファンタジー

 

  製作:1983年
  製作国:アメリ
  日本公開:1984
  監督:スティーヴン・スピルバーグ
  出演:スキャットマン・クローザース、ビル・クイン、ヘレン・ショウ、
     マレイ・マシスン、イヴァン・リチャーズ、他

  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    老人ホームで飼われている猫
  名前:なし
  色柄:茶トラ

 

4月3日に発生した台湾東部沖地震で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

ミステリーゾーン

 以前、『グレムリン』(1984年/監督:ジョー・ダンテ)のときにこの『トワイライトゾーン』(以下同様に略記)の第4話、飛行機の翼に乗ってエンジンを破壊しようとする怪物を乗客が目撃するエピソードについてお話しさせていただきましたね。『トワイライトゾーン』は、1960年代に日本のテレビで『ミステリーゾーン』という邦題で放映された、1話完結の30分のドラマシリーズのうちのエピソードの4つをオムニバス映画化したものです。本国アメリカのTVドラマは1959年から1964年まで放送されたそうですが、その後リメイク版が何度か作られています。
 1960年代初めの日本のテレビ局は自前の番組がまだ少なく、よくアメリカから輸入したドラマやアニメを放映していました。戦争ものの『コンバット』、クリント・イーストウッドが出演していた『ローハイド』、いまもキャラクターを目にするアニメの『トムとジェリー』など、テーマ曲が頭を離れない人気シリーズはこれ以外にもたくさんありましたが、何年にもわたって繰り返し放映されたり、シーズンの中の1部が不定期に放映されることもあったりして、いったいいつからいつまで放映されていたのかよくわからないものもあります。そのおかげでいまの60歳代から90歳代くらいまでが、同じドラマのことで話が盛り上がったりすることもあるようです。
 今回取り上げる『トワイライトゾーン』の第2話は、アメリカで1961年9月からTV放映された第3シーズンの86話「真夜中の遊戯(原題:Kick the Can)」を、スティーヴン・スピルバーグ監督が劇場版にリメイクしたもの。劇場版『トワイライトゾーン』は、ジョン・ランディス監督とスピルバーグ監督が製作し、プロローグと第1話をジョン・ランディススピルバーグがこの第2話を、第3話を『グレムリン』のジョー・ダンテ、第4話を『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラーが監督しています。
 なお、このブログの『グレムリン』の記事で『トワイライトゾーン』のことをお話ししたときに、第1話から4話までの邦題を紹介しましたが、この題はテレビ版に付けられていたもので、劇場版には付けられていませんので、この記事では省略いたします。

◆あらすじ

 老人ホーム「太陽の谷」では、今日もお年寄りたちが判で押したような生活を送っていた。その日、入居者のコンロイ氏(ビル・クイン)が表で遊んでいる子どもの声がうるさいと言い出したのをきっかけに、みんな子どもの頃の遊びの話をし始める。最近ホームにやって来たブルーム(スキャットマン・クローザース)はもっぱら缶蹴りで遊んでいたと言い、今晩、ホームの庭で缶蹴りをしないかとみんなを誘う。
 「規則違反だ」「転んだら起き上がれない」と、コンロイ氏は参加しないことにしたが、他のみんなは夜中にベッドを抜け出してブルームを鬼に缶蹴りを始める。
 大はしゃぎで庭を走っていたお年寄りたちは、気が付くと缶蹴りで遊んでいた頃の子どもの姿に戻っていた。ブルームだけは老人のままだった。
 ブルームがお年寄りたちに向かって、また子供に戻って人生をやり直すのだ、と言うとお年寄りたちは困惑する。心は子どもで、体は今のままでいい、と口々に言って、寝ているコンロイ氏の寝室に忍び込む。目覚めたコンロイ氏が子どもになったみんなに驚いて職員を呼んで来ると、みな元のお年寄りの姿に戻っていた。
 翌朝から「太陽の谷」ホームは一変する・・・。

◆猫も変身

 物語の始め、ホームの入居者が集まって、ビタミンの効能についての講義を聞いています。後ろの方の席では退屈でシャボン玉を吹いている人も。最前列に座っているのは、講師の話に笑ったりしてくれるありがたい聴衆・デンプシー夫人(ヘレン・ショウ)。開始から1分もたたないうちにその彼女が膝に茶トラ猫を乗せて講義を聞いているところが映るのですが、猫の姿は字幕に隠れてしまうので、気がつかないかもしれません。
 それからしばらく後に、ぼんやりと無表情に座っているおじいさんがこの猫を抱いているところが映ります。ホームのペットの猫。日本でも最近は入居者の心の健康のために動物を同居させたり連れてきたりするところが増えているそうですが、この映画が製作された40年以上前はまだそういう風潮ではなかったと思います。
 その猫好きのデンプシー夫人、夜中にホームの庭に集合したときも猫を抱いています。そして、みんなが子どもの姿に変わってしまったとき、この猫も子猫の姿に変わっているのです。当のお年寄りたちが70数年若返ったのだとしたら、猫はマイナス70年くらい若返って、子猫どころか存在すらしていなかったはずですが、まあタイムスリップしたわけではなく、猫も人間も同じ割合で若返ったということでしょう。そしてコンロイ氏が「部屋に子どもがいる」と職員を連れて来たとき、みんながお年寄りに戻っていたように、子猫は元のおとな猫に戻っています。
 最後に猫が登場するのは、終了からおよそ1分半前。デンプシーさんの仲良しの女性の孫が抱いています。みんな、いそいそと楽しそうに湖に出かけていくところです。

◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆空白の日々

 「“希望のない人生とはむなしいもの”とか」という冒頭の画面外からのナレーション。毎回ガイド役のナレーションで物語が始まるのが『トワイライトゾーン』の定番です。
 みんながビタミンの講義を受けている部屋の窓の外で、コンロイ氏はワイシャツにネクタイを締め、スーツケースを提げ、息子一家の家に行く支度をして待っていたのですが、息子夫婦は忙しいと言って挨拶だけして帰ってしまいます。それを窓から見ていたエイジー(マレイ・マシスン)は、コンロイは毎月同じことを繰り返していると、まだ「太陽の谷」に来て間もないブルームに説明します。入居者たちは、こうして代わり映えのしない日々を当たり前のように過ごしています。お迎えの来る日まで、未来に何も待ち受けるものがない人生・・・。何から何まで世話を焼いてもらえるけれど生き甲斐のない人生・・・。
 そんなとき、子どもの頃を思い出して、木登りが得意だったとか、体が動けばまたダンスを踊りたいとか、顔を輝かせるお年寄りたち。でも、いまは昔の物語とあきらめていると、ブルームが懐からピカピカ光る缶蹴りの缶を取り出すのです。「皆さんを子どもの頃に返してあげる」と。

◆老いた体でも

 英語でも「Kick the Can」と、そのまま日本と同じ「缶蹴り」ですが、映画を見ると遊び方もほとんど変わらないようです。「ガキどもめ」とみんなをバカにしていたコンロイ氏をしり目に、缶蹴りばかりでなく、いつのまにか海賊のいでたちになったエイジーさんと子猫を抱いたデンプシー夫人がダンスを踊ったりしています。老眼鏡が大きすぎてずり落ちている幼いデンプシー夫人の前歯は、永久歯への生え代わりのため抜けています。
 ところが、そんなみんなにブルームが言ったのは、子どもに戻って人生をリセットするのではなく、どうやら同じ人生をリピートするということ。辛かったことを繰り返すのは嫌だ、と言うみんなにブルームは言います。
「今夜の気持ちを持ち続けたら、目覚めたとき老いた体にフレッシュな若い心が戻っている」と。
 こうしてホームのお年寄りたちは、次の朝から若返った心で再び生き生きと人生を楽しみ始めるのですが、ただ一人、子どもになったまま帰ってこない人がいたのです。

◆明日は明るい日

 子どもの頃ダグラス・フェアバンクスに憧れて、彼のようにベッドに飛び降りたり、窓から飛び出したりしてよく骨折していた、と話していた伊達男のエイジーダグラス・フェアバンクスとは、どこかの銀行の偉い人のような名前ですが、『バグダッドの盗賊』(1924年/監督:ラオール・ウォルシュ)などで有名な100年前のファンタジー・冒険活劇の大スターです。私も断片的にしか映像を見たことがありませんが、ちょっとエッチなおじさん風。子どもに戻って上半身裸にマントを羽織ったエイジー(イヴァン・リチャーズ)の姿は、彼の映画のまねなのです。
 ところが、ほかのお年寄りたちが元の老いた姿に戻っても、エイジーだけは子どものままです。みんなが辛い人生を繰り返すのは嫌だと言ったのに、彼だけは自分は幸福だったと言って本当に窓から飛び出して消えてしまうのです。
 この物語が、お年寄りたちが子どもの心を思い出して生き生きと若返ったという終わり方だったら、ごく普通の寓話ですが、エイジーだけがどこかへ消えてしまったという謎めいたところが『トワイライトゾーン』ならでは。
 そしてこのエピソードにはまた別のオチが待っています。それはぜひご自分で見て確かめてください。

 子どもの頃怖がりだったので、逆に妹たちを怖がらせて楽しんでいたというスピルバーグ監督(注)、子どもを生き生きと描くことにおいては彼の右に出る人はいないのではないでしょうか。
 缶蹴り遊びが始まると、自分も一緒に遊んでいるかのようなドキドキ感に襲われます。『E.T.』(1982年)や『インディ・ジョーンズ』シリーズや『ジュラシック・パーク』シリーズなど、スピルバーグ監督の映画に登場するたくさんの子どもたち。それらの映画を見ていても、いつの間にか自分が子どもたちの側になって驚いたり怖がったりしていることに気づきませんか? それはスピルバーグ監督自身がいつまでも子どもの心を持ち続け、子どもになって面白がっているからだと思います。このエピソードのブルームのように。
 スピルバーグは、このエピソードの監督をするのは自分だと初めから決めていたのではないでしょうか。そして、監督の若い頃の写真を見ると、消えてしまったエイジーを演じた少年俳優と、とてもよく似ているように思えるのです。

◆超次元の体験

 最後に『トワイライトゾーン』の、まだお話ししていない残り2つのエピソードについて簡単にお話しします。
 第1話は、人種差別意識の強い男が酒場でユダヤ人や黒人や東洋人の悪口をまくしたてて表に出ると、そこは第二次大戦中のナチスが占領していたフランス。彼はユダヤ人としてドイツ兵に追い詰められ、気が付くと今度は黒人としてKKK団にリンチに遭い、川に逃げ込むとそこはベトナム戦争中のベトナムで、アメリカ兵に撃たれそうになる、というもの。
 主人公を演じたビック・モローは、1960年代のTVドラマ『コンバット』でサンダース軍曹役を演じ、日本でも人気でしたが、このベトナムの場面の撮影中に事故により亡くなってしまいました。以前紹介した『ルームメイト』(1992年/監督:バーベット・シュローダー)で異常なルームメイトを演じたジェニファー・ジェイソン・リーは、彼の娘です。
 第3話は、車で一人旅をしていた女性が男の子の自転車に車をぶつけ、家に送っていくと、男の子は超能力の持ち主で、家族を支配して姉をアニメの中に閉じ込めたりしてしまう話。
 男の子の家でみんなが見ているTVも、1960年代の日本でおなじみだった『ヘッケルとジャッケル』などのアニメ。この映画が1960年代のTV番組を土台に構成されているということがそれらによって再度浮かび上がり、タイムスリップしたような感覚、と言うより、トワイライトゾーンの扉を開けてしまったような感覚に襲われます。

 最新版『トワイライトゾーン』は2019年から2020年にアメリカでネット配信が開始され、リリースの方法も物語の内容も現代風にアップデート。我が家では『トワイライトゾーン』よりもう少しオカルト色の強かった『世にも不思議な物語』(原題:One Step Beyond)を好んでいたのですが、どちらも今ではネットやソフトなど、多様な方法で好きな時に見ることができるようになりました。こんな時代が来ようとは、あの当時思いもしなかったなあ・・・。

 

(注)『スピルバーグ!』(TVドキュメンタリー/2017年/監督:スーザン・レイシー)より」

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