この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

ルームメイト(1992年)

ルームシェアした女が自分をコピーし、恋人を奪う。戦慄のサイコサスペンス!


  製作:1992年
  製作国:アメリ
  日本公開:1993年
  監督:バーベット・シュローダー
  出演:ブリジット・フォンダジェニファー・ジェイソン・リー
     スティーヴン・ウェバー 他

  レイティング:R-15(映画公開時15歳未満の方の鑑賞が禁止された作品です)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    主人公の友人のペット
  名前:カルメン
  色柄:長毛の茶トラ
  その他の猫:モナリザの顔(?)

 

◆コード

 アメリカの映画界では、1960年代まで「ヘイズ・コード」と一般に呼ばれる業界の自主規制があって、製作段階で殺人の方法や残酷な描写、ヌード、ベッドシーンなどが避けられてきました。いまこれらの描写を禁じたら、ハリウッド映画は検閲カットだらけですね。
 『ルームメイト』は、エロチックな場面、殺人の手口など、かつてのヘイズ・コードでは描けなかった要素が盛り込まれた大人向けサスペンスです。公開時の日本でR-15、現在のR15+相当となっています。
 現在、日本では、性的なものだけでなく、暴力など刺激的な描写や青少年に影響を与える恐れのある要素を考慮して、G(全年齢鑑賞可)、PG12(12歳未満には成人保護者が助言・指導)、R15+(15歳未満の入場・鑑賞禁止)、R18+(18歳未満の入場・鑑賞禁止)の4段階の規制が映倫によってなされています。

◆あらすじ

 ニューヨークで、ファッション業界向けのソフトウェアを開発しているアリー(ブリジット・フォンダ)は、センスもスタイルも抜群。まだ儲かるほどではなく古ぼけたアパートでサム(スティーヴン・ウェバー)と同棲していたが、ケンカしてサムを追い出し、孤独感から新聞にルームメイト募集の広告を出す。応募者の中で野暮ったいヘドラジェニファー・ジェイソン・リー)という女性と気が合い、アリーは彼女をヘディと呼んでルームメイトに選ぶ。
 しばらくするとヘディはアリーに無断で子犬を飼い始め、アリー宛の留守電の録音を勝手に消し、アリーの外見をコピーし始める。やがてサムがヨリを戻しにアリーの部屋に帰ってくると、ヘディはサムに女として接近していく。アリーとサムは、自分たちが元通りこの部屋に住み、ヘディによそに移ってもらおうとするが、ヘディはサムに執着し、アリーと同じ髪型と服装をして出張中のサムのホテルを訪ね、眠っていたサムを辱めたあと、殺してしまう。
 翌朝、ヘディは荷物を整理してアリーのアパートを出ようとしていた。そのときテレビのニュースでサムが殺されたことを知ったアリーは、ヘディの仕業ではと彼女を問い詰める。ヘディはピストルを出してアリーを脅し、階上のアリーの友人・グラハム(ピーター・フリードマン)の部屋にアリーを監禁する・・・。

カルメンという名の猫

 アリーの友人・グラハムは役者志望のゲイ。性別を意識しない友人として、アリーはグラハムに自分の悩みやサムとのことなど、何でも話し、お互い頼ったり頼られたりの仲。グラハムも、しばらく部屋を留守にする間の愛猫のカルメンの世話をアリーに頼みます。長毛の茶トラのカルメンをアリーが世話する場面は出てきません。
 だんだんとヘディの様子がおかしくなってきたことをアリーがグラハムの部屋に相談に行ったあと、様子をうかがっていたヘディが棒で彼を滅多打ちに。彼は殺されてしまったかと思いきや、アリーがグラハムの部屋に監禁されるまで、空のバスタブに横たわって気絶。その肩のところにカルメンがじっとうずくまっています。その間どのくらいの時間が経過したのやら。「おなかすいた」と、生臭い息で迫ったりしなかったのでしょうか。どうやらおっとりした猫のようで、男を手玉に取って誘惑するカルメンという名はちょっとそぐわないみたいです。
 記事の冒頭で、カルメン以外の「その他の猫」として「モナリザの顔」という紹介をしましたが、これはアリーの電話台に飾ってある、モナリザの顔の部分を猫の顔に差し替えたイタズラの絵のことです。

  ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

      

◆固定電話

 ラスト30分は、ヘディの異常性が爆発。追い詰められたアリーがピンチを脱するかと思えばまた次のピンチ。CGなどによる特殊効果でなく、生身の人の体のアクションを使っているところが、最近の映画にないリアリティでスリル満点です。
 この映画の当時はまだ携帯電話が普及していず、固定電話がストーリー展開に大きな役割を果たします。アリーとサムの仲たがいのきっかけも、二人が甘いささやきをかわすベッドサイドの電話にサムの別れた妻が電話をよこしたことから。アリーに宛てたサムからの留守電の録音をヘディが意地悪して消してしまったり、サムがアリーに電話したのにヘディが電話機を独り占めにしてアリーと話させなかったり、その場にいる者の共有のツールだったかつての電話ならではの展開の妙が楽しめるのです。
 もう一つ、固定電話にまつわる展開に関わるのは、マイヤーソンというアリーの顧客。マイヤーソンの会社でアリーのソフトをテスト使用中、アリーはカルメンの世話のためグラハムの部屋にいたので、マイヤーソンに連絡先としてグラハムの部屋の電話番号を教えていました。そのとき、期限までに代金を支払わないと自動的にデータが消去されるプログラムが働いて、青ざめたマイヤーソンはアリーと話を付けに、教わった電話番号をもとにグラハムの部屋を訪ねてくるのです。ちょうどそのとき、アリーはヘディに監禁されてグラハムの部屋に。アリーが自分の部屋の電話番号を教えていたら、マイヤーソンはそっちに行ってしまったところでした。マイヤーソンはヘディを押しのけて部屋に入り、ガムテープで縛られていたアリーを見つけて助けようとするのですが・・・。

◆許せない奴

 こう書くと、マイヤーソンは地獄に仏のヒーロー役かと思うかもしれませんね。マイヤーソンはアリーのソフトの導入にあたり、大幅な値引きを要求し、その代わり取引先を集めてアリーのソフトのプレゼンの機会を設けていました。終わったあとアリーを一人残し、アリーの操作するパソコンの画面を後ろから覗き込み、セクハラに及んでいたのです。
 マイヤーソンほどではなくても、後ろから男の人にパソコンの画面をのぞき込まれ、息のかかるような近くに相手の顔があったり肩に手を置かれたり、という経験のある女性も多いのでは? マイヤーソンは、ガムテープで縛られているアリーを見つけたときも、わざわざアリーの腰のあたりにまたがってテープをはがそうとしています。隙あらばそれにつけこもうとするこうした人間のいやらしさは不愉快そのもの。
 アリーは、プレゼン後にセクハラされたとき、マイヤーソンの急所を突き上げて逃げてきたのですが、帰ってからヘディに「悪い評判を立てられる」と泣くのです。個人経営でこれから仕事が軌道に乗ろうとしていたときに、顧客にあんなことをしてしまった、信用が大事なのに、と自分の行為を悔いています。性被害に遭い、夢見ていた未来や居場所を失う人は少なくないはずです。加害者側は、一時的な出来事と思うかもしれませんが、被害者の人生を変えうる重大な過ちを犯したということを真に反省しなければなりません。
 話を聞いたヘディは、アリーのふりをして電話でマイヤーソンの妻への言葉による下品な報復を。もはやアリーの顔は丸つぶれ・・・。

◆モンスター

 ヘディのクロゼットにアリーと同じ服がかかっていたり、一緒に美容院に行ってアリーと瓜二つに変身したり、ヘディの暴走はもはや止められない段階に入っていきます。それを加速したのはサムの存在でしょう。
 ヘディは一種の人格障害ですが、アリーと同一化し、アリーのようになりたかったのでしょうか。サムをめぐっては、自分そのものがサムに愛されたかったのでしょうか、それともアリーそっくりに変身することによって、サムに愛されているという錯覚を得ようとしていたのでしょうか。けれども自分自身がアリーになりえないことを悟ったとき、サムとアリーへの憎悪が煮えたぎります。
 彼女の人格に大きな歪みをもたらしたのは、子どもの頃、双生児の片割れが事故で亡くなった一件、と描かれています。サイコセラピーの盛んなアメリカでは、こうした過去の心的外傷が異常な心理を生んだと描かれる映画がよく見受けられます。それらの映画では人格のバランスを失った者への懲罰的なラストが用意されていることが多いようです。『ルームメイト』もその一つですが、ここにも『フランケンシュタイン』(1931年/監督:ジェームズ・ホエール)のような、社会の異端者は排除されなければならないという態度が貫かれていると言うことができるでしょう。

◆孤独な現代女性

 主役のアリーを演じたブリジット・フォンダは、ピーター・フォンダの娘。ジェーン・フォンダは彼女の伯母にあたります。アリーはショートヘアに個性的な髪の色、美しいプロポーションをスーツに包んだソフトウェア開発者と、最先端で都会的な魅力を具現化したような女性でありながら、サムやルームメイトがいなければ孤独に耐えられない弱さも見せています。
 そんなアリーを、後半、ヘディが一気に吞みつくす勢いで完全に圧倒。サム、グラハム、マイヤーソンなどの男たちは助けにならず、結局はアリーが一人で彼女と対峙します。それは、社会に進出して孤独な戦いを強いられる現代女性の像と見ることもできるでしょう。アリーとヘディを、一人の女性の中の、社会に適応しようとする意識的な自我と、それを揺り戻そうとする無意識の力の象徴と見るのも、一つの解釈かもしれません。
 ヘディを演じたジェニファー・ジェイソン・リーは、1960年代に日本でも放映され人気だったTVシリーズ『コンバット』のサンダース軍曹役・ヴィック・モロー(懐かしい!)が父親。女優のほか、監督や脚本も手掛けたりと、年に1、2本のペースで映画に携わっていて、2015年のクエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』では、賞金1万ドルがかかった凶悪犯で、すさまじい血みどろの汚れ役を。ブリジット・フォンダは、結婚後かれこれ20年近く芸能活動はしていないそうです。二人のそうした背景を盛り込んだ続編を作っても面白いのでは?
 監督のバーベット・シュローダーはテヘラン出身。監督のほか俳優としても活動、バルベ・シュローデルとして、フランスのヌーヴェル・バーグのジャック・リヴェット監督や、エリック・ロメール監督作品のプロデュースをしたりしています。

 

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