この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

危険がいっぱい

60~70年代の旗手・アラン・ドロンジェーン・フォンダによるスタイリッシュな恋愛サスペンス。

  製作:1964年
  製作国:フランス
  日本公開:1964年
  監督:ルネ・クレマン
  出演:アラン・ドロンジェーン・フォンダ、ローラ・オルブライト 他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    隠れ住む男の猫
  名前:不明
  色柄:黒、長毛のキジトラ(モノクロのため推定)


泣く子も黙る

 20世紀を代表する美男スター、アラン・ドロン。彼ほど誰もが認めるカッコいい男はいま見当たらないのではないでしょうか。何のコマーシャルか忘れましたが「水谷豊さん、あなたのライバルは?」とインタビュアーが尋ねると「アラ~ン・ドロ~ンかな~」と若かりし水谷豊が答える、というものがありました。雲の上の存在のアラン・ドロンに対し、及びもつかない(失礼)水谷豊が臆面もなくライバル視している、というところがギャグになっていたわけです。ドロン自身が出てフランス語で語るアパレルメーカーのCMもありました。わがブログのイラスト担当・茜丸も、職場の机のところにアラン・ドロンの写真を貼って「明日はドロンになろう、明日はドロンになろう」と唱えていたとか。犯罪映画などで陰影のある役を演じ、男性からも憧れられていました。
 その彼が裸で海岸を走る映画『ショック療法』(1972年/監督:アラン・ジェシュア)が話題を呼んだことがありました。あちらの映画ですので、生まれたままの姿で・・・。伸び伸びと楽しそうな笑顔で走るその姿を大きく引き伸ばした、画質の荒い写真が週刊誌1ページ大で載っていたのを覚えています。

◆あらすじ

 美青年のマルク(アラン・ドロン)は、ニューヨークでギャングのボスの妻に手を出し、ボスの命令でフランスまでやって来たギャングの子分たちに追われることになる。彼は命からがらニース近くの救貧院に転がり込み、そこで食事提供の奉仕活動をしている大富豪の美しい未亡人バーバラ(ローラ・オルブライト)と、メリンダ(ジェーン・フォンダ)と出会う。バーバラはマルクを運転手として雇うことにし、お城のような大豪邸に連れて帰る。メリンダはバーバラのいとこで、召使のように彼女の食事などの世話をしていた。バーバラは無作法なマルクをさげすみ、パスポートまで取り上げてしまう。
 広大な屋敷にいるのはバーバラとメリンダとマルクの3人だけのはずだったが、マルクはほかの誰かが隠れ住んでいることに気づく。マルクはすきを見て怪しげな屋敷から逃げ出そうとするが、外に出れば出るでなおもギャングに追い回され、メリンダに連れ戻される。メリンダはマルクに恋していたが、マルクはいつしかバーバラと男と女の仲に。
 バーバラは2年前に夫を殺し、ほとぼりが冷めた頃に愛人のヴァンサン(オリビエ・デスパ)と南米に高跳びするつもりだった。屋敷に隠れているのはヴァンサンだった。マルクは、マルクのパスポートを奪ってヴァンサンがマルクになりすまし、国外に逃亡するために夫人に雇われたのだ。
 バーバラがマルクと関係を持ったのは、その計画が終わるまでマルクをつなぎ留めておくためだったが、いつの間にかマルクに惹かれ、ヴァンサンが邪魔になっていた。一方、メリンダはマルクとバーバラの関係を知り、二人を引き裂こうと架空の愛人を装ってバーバラに偽電報を打つ。マルクがそれを読み上げるのを聞き、激怒したのはヴァンサンだった。バーバラはヴァンサンに命を狙われ、マルクに助けを求めるが・・・。

◆猫と密着

 映画の中盤、マジックミラー越しにバーバラと話すヴァンサンが、黒猫を抱いています。彼がいるのは、バーバラの部屋の鏡の向こう側。クローゼットの奥に秘密の部屋への通路があるのですが、カメラがその通路を通って部屋に入る経路を追わないため、バーバラの部屋と隠し部屋が立体的にどのような位置関係にあるかはよくわかりません。ヴァンサンは2年間、猫を相手にそこに閉じ込もっているのです。この黒猫さん、ヴァンサンと共に何度か登場するのですが、最後に逃げる場面を除いて、どの場面でも妙に固まっておとなしい。映画出演であがっていたのではないと思いますが、動き回らないよう薬でも打たれていたのでは?
 ヴァンサンはもともとバーバラのスキー教師(典型的な有閑マダムの浮気パターンですね)。日焼けしたスポーツマンだった彼は、2年間のおこもり生活で青白く太ってしまったとのこと。コロナで外出自粛を経験した我々には大いに納得できる話ですが、それ以上に問題だった精神面のケアは? 黒猫は隠遁生活の友として与えられていたのですが、猫1匹で2年はちょっと・・・。刑務所もの映画だとネズミが時々遊びに来てくれたりするのですが、猫がいるんじゃ捕られちゃったりして。
 さて、この映画にはこの黒猫のほかにもう1匹、長毛のキジトラの子猫が出てきます。その話をしてしまうとこの映画のオチを語ってしまうことになるので、このへんで・・・。

  ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

      

◆いっぱいいっぱい

 ルネ・クレマン監督とアラン・ドロンの組み合わせと言えば『太陽がいっぱい』(1960年)。若者の競争心、愚かさ、未熟な愛を描いた不朽の名作です。嫉妬と憎しみから金持ちのドラ息子を殺す主人公の青年を演じたアラン・ドロンは一躍スターに。邦題『危険がいっぱい』は、その『太陽がいっぱい』をもじったものでしょう。
 さて、そのいっぱいな危険ですが、見ていてあまりじわじわ来ないのです。
 アメリカのギャングに狙われる危険、バーバラの策略によって殺されそうな危険、そして小娘メリンダに追いかけられる危険、という三つの危険。ギャングに追われて恰好の隠れ場所となるお屋敷に潜り込め、やれやれと思ったにもかかわらず、パスポート目当てで殺されるという罠が仕掛けられていたわけですが、その「やれやれ」の前段階であるアメリカギャングとの攻防があまりスリリングではないのです。
 ホテルでの水責め、崖からの車の転落、水中アクション、交通渋滞からの逃亡など、目に訴えるサービスはたしかに盛られているのですが、報復として命を狙われているという恐怖が感じられません。ギャングのボスの命令は「マルクの首を取ってこい」。わざわざフランスまで子分が3人も出かけて行って、さすがに首を持って帰れないので、確かにマルクを殺したという証拠にマルクを襲っている写真を撮ったり、情事の告白をテープに録音したりと、モタモタ。さっさと殺して死体の写真を撮ればいいんじゃないかと思うのですけれど。
 ギャングたちもギャングの妻もアメリカ人に見えませんし、フランスにいるマルクとニューヨークとの接点も謎。ギャングの間抜けぶりで笑わせに行っているとも思えませんし、「ギャングの危険」の部分は失敗と言っていいのではないでしょうか。

◆第三の危険

 三つ目の危険がメリンダ。彼女は先の二つの危険に比べればかわいい感じです。救貧院でマルクを初めて見たときからマルクにときめいていたのですが、マルクは美しくセクシーで謎めいた未亡人バーバラに惹きつけられます。ニューヨークでギャングの妻に手を出したように、女遊びにたけたマルクは、バーバラに恋をしたというより次なる標的に巡り合った、というわけ。
 彼にしてみればメリンダなどガキっぽくって相手にする気はないのですが、若い娘の恋は一途。自分がマルクの眼中にないとわかると、マルクのコーヒーに睡眠薬を入れたり、バーバラ宛にニューヨークにいる愛人を装った電報を打ったり、バーバラへの腹いせなのかヴァンサンを下着姿で誘惑したり、と、思いつく限りの嫌がらせ。マルクが愛してくれなくても、せめていつも自分のそばにいてほしいという願望がふくらみ始めます。
 メリンダはしきりに自分がバーバラより魅力がない子どもだということを気にしています。ヨーロッパ、特にフランスでは若い女性にない中高年女性の成熟した魅力が賛美されるようなイメージがありますが、現実はどうなのでしょう。この映画に限って言えば、マルクとしてはバーバラは願ってもないカモで、真剣なメリンダは商売の邪魔。こいつに関わって道草を食うわけにはいかないと、なんとかかわしていくのですが、最後にどんでん返しが待っています。

◆スター その後

 ジェーン・フォンダは、名優ヘンリー・フォンダの娘、ピーター・フォンダの姉。特別美人というわけではありませんが、意志の強そうな瞳、抜群のプロポーション、一目見ると忘れられない個性です。
 『コールガール』(1971年/監督:アラン・J・パクラ)、父と共演した『黄昏』(1981年/監督:マーク・ライデル)での二度のアカデミー主演女優賞という、俳優としての活動に加え、60~70年代にはベトナム反戦運動でその名をとどろかせ、80年代になると、レオタードにレッグウォーマー姿で「ジェーン・フォンダのワークアウト」ビデオで一世を風靡など、アメリカ女性のアイコンと言うべき存在。彼女の出演した映画を年代順に追っていくと、20世紀後半からの女性の歴史が浮かび上がってくるように思います。
 2018年の『また、あなたとブッククラブで』(監督:ビル:ホールダーマン)で、「春」を取り戻す高齢女性の役で、キャンディス・バーゲンダイアン・キートンらと共演していますが、彼女が一番変わってない印象。現在も環境問題や女性の権利についての発信を続けているそうです。

 そんな彼女がセクシー路線で売っていた時期があります。1968年の『バーバレラ』(監督:ロジェ・ヴァディム)のスチル写真を見た子どもの私は、美ボディからしばし目が離せませんでした。監督のロジェ・ヴァディム(2000年没)は、映画界名うてのプレイボーイ。ジェーンのセクシー路線の時代、彼女の夫だったのですが、妻を性的シンボルとして世に出す男って・・・。ジェーン・フォンダ以外に、ブリジット・バルドーと結婚していたこともあり、カトリーヌ・ドヌーヴとの間に子どもをもうけ、平行恋愛も多数と聞いています。この三人から表立って悪口は言われていないようなのですが、今の時代だったらどうだったのか?

 アラン・ドロンは今年・2022年の誕生日で87歳、ジェーン・フォンダは85歳。ドロンは今年になって安楽死を希望したというニュースが流れています。


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