この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

拳銃貸します

アラン・ラッドとヴェロニカ・レイクのコンビによる第二次大戦中の犯罪映画。日本が悪役の隠れた戦意高揚もの。

 

  製作:1942年
  製作国:アメリ
  日本公開:2013年
  監督:フランク・タトル
  出演:アラン・ラッド、ヴェロニカ・レイクロバート・プレストン、他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    主人公の住まいの通いの子猫、小屋に入って来た猫
  名前:?
  色柄:子猫=黒白、小屋猫=茶トラ(モノクロのため推定)


◆カムバーック!

 この映画の主役を演じたアラン・ラッドといえば『シェーン』(1953年/監督:ジョージ・スティーヴンス)があまりにも有名。悪漢を撃って、言葉少なに馬に乗って去っていくアラン・ラッドのシェーンの背中に、少年が「シェーン、カムバーック!」と叫ぶ・・・。男の中の男、シェーン!
 役目を終えたらシェーンのようにさっと去るのがヒーローでいるコツ。あまり長居するとボロが出て普通のおじさんに急降下しちゃいますからね。

◆あらすじ

 第二次大戦中のサン・フランシスコ。殺し屋のレイヴン(アラン・ラッド)は、依頼によりある薬剤師を拳銃で殺し、奪った手紙を依頼主の代理人のジョンソンという男(レアード・クリーガー)に渡す。ジョンソンから渡された殺しの報酬は全部番号が控えられた札だった。知らずにその札を使ったレイヴンは警察に追われる。
 ジョンソンは、実はロスアンゼルスのナイトクラブの経営者かつ、化学メーカー・ニトロケミカル社の重役で、本名はゲイツ。薬剤師は、ニトロケミカル社の裏ビジネスに関する情報を議員に手紙で知らせると会社を恐喝したために殺されたのだ。
 ゲイツがレイヴンに番号を控えた札を渡したのは、前もってニトロケミカル社の会計係を殺して金が強奪されたと工作し、その札をレイヴンに渡して彼を会計係殺しの犯人として警察に逮捕させようとしたからだ。レイヴンはその札の件で話をつけに彼の住むロスアンゼルスに向かうことにする。
 一方、ゲイツは芸人のオーディションでエレン(ヴェロニカ・レイク)という手品師を見て、ロスのクラブの出演契約をする。エレンは、芸能エージェントを通じて、殺された薬剤師が密告しようとしていた相手の議員に引き合わされ、ゲイツに国への裏切りの疑いがあると聞かされて、ゲイツの情報収集を請け負うことになる。
 ロスアンゼルスに向かう夜行列車の中で、エレンの隣の席にレイヴンが座り、同じ列車に乗り合わせたゲイツが、エレンとレイヴンが寄り添って眠っているのを見かけ、二人が知り合いではないかと疑う。駅に着いたとき、レイヴンは警察に追われていると明かしてエレンと夫婦を装って逃げる。エレンはゲイツとレイヴンに接点があることに気づく。ゲイツの自宅にディナーに呼ばれたエレンは、レイヴンの仲間と疑われて殺されそうになるが、レイヴンに助け出される。
 エレンの恋人はマイケル(ロバート・プレストン)という警部補だった。マイケルは、レイヴンがエレンを連れてガス工場に逃げ込んだことを突き止め、工場の操車場を包囲する。エレンは、議員に宛てた薬剤師の手紙に書かれていたのは毒ガスの化学式で、ニトロケミカル社が敵国の日本にそれを売り、ガスに加工して送ろうとしているとレイヴンに明かす。レイヴンはエレンを逃がし、警察の追跡を振り切ってニトロケミカル社の社長室に乗り込む・・・。

◆猫好きの殺し屋

 レイヴンが薬剤師殺しに出かける前、アパートの窓に1匹の黒白ハチワレの子猫が姿を見せます。いつもこうして通って来るのか、ベッドのサイドテーブルのところにミルクの缶が用意してあり、レイヴンは皿にミルクをあけて猫に飲ませてやります。
 そこにアパートの掃除人のアニーがやって来て掃除を始めようとすると、子猫がミルクの缶をテーブルから落としてしまいます。怒ったアニーが子猫を追い払うと、レイヴンはいきなりアニーをビンタ。アニーの服の肩のところをつかんで破いてしまいます。「新しい服を買ってよ!」と恐い顔でわめかれたレイヴンは、ジョンソンからお金を受け取ったあと、通りすがりの洋服屋で服を買うのですが、そこで使ったお札がもとで追われてしまうのです。
 アニーに追い払われた子猫にあらためてミルクをやるとき、猫が大きく映るのですが、このときは黒白ではなく、黒の中に縞模様が見えます。代役なのか、それまで小さく映っていたので縞模様が見えなかったのか?
 始まって2分ちょっとで登場するこの猫とは別に、後半、レイヴンとエレンが化学工場の操車場の小屋に隠れているときに茶トラのおとなの猫が登場します。レイヴンは「猫は幸運を招く」と言って膝に抱きよせ、優しくなでます。「猫が好きなのね」と言うエレンに、レイヴンは「猫は自立していて一人で生きられる」と、孤独な自分と猫を重ね合わせているかのように語ります。
 二人がそうして潜んでいると外で男の声がして、猫が鳴き声をあげ、緊張が走ります。とっさにコートを猫にかぶせ、静かになってから「猫を出してあげて」とエレンが言うと、レイヴンは「自分が殺した」と言います。鳴き声で見つからないよう絞め殺してしまったのでしょうか。「俺の運を殺した」と言うレイヴン。「ゆっくり休め。お前と一緒に過ごしたかった」と、悲しげにつぶやきます。彼は、自分をゆがませてしまった過去の心の傷をエレンに吐き出すように語り出すのです。

  ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

      

◆再びグレアム・グリーン

 このブログで最初に取り上げた映画は『第三の男』(1949年/監督:キャロル・リード)。今回の映画の原作者も『第三の男』と同じグレアム・グリーンです。『第三の男』のとき、「名作なのに面白くない」と言いましたが、今回もやっぱりどこか似たところがあります。面白かった、スリルがあった、とスッと素直な反応が浮かんできません。
 サスペンスに不向きの私の頭のせいもあると思いますが、原作にあるたくさんの情報が、映画化するときに重みづけがされないまま、なんでもかんでも詰め込まれてしまったように感じます。面白い要素はたくさんあるので、よけいなセリフや人物を排し、ポイントごとのメリハリが利いていれば、と、ちょっと残念です。とは言え、「あらすじ」をまとめた私も、どこかを省略すると話がつながらなくなるので、結局どんどん詰め込むことになってしまいました。
 一度見てピンと来なかった人も、『第三の男』のように、わからないところを補うように何度か見ると、この映画の「悪くなさ」が見えてくると思います。

◆キメある男

 ヴェロニカ・レイクが最初にクレジットされているこの映画、冒頭の薬剤師殺しと、レイヴンとエレンの逃走劇、そして手品師エレンの芸が見どころ。
 子猫とアニーとのエピソードに描かれる、レイヴンのすぐカッとする乱暴な性格。薬剤師のアパートの階段に座っている脚の悪い女の子、薬剤師の部屋のソファに寝そべっているふしだらな感じの「秘書」、急にけたたましい音を立てる笛吹ケトル。二人を撃って去り際、再び階段で脚の悪い女の子に会い、顔を見られたからと鞄の銃に手を伸ばすレイヴン。スリリングな運びで滑り出しはなかなか。
 レイヴンとエレンが工場に逃げ込んでから操車場を脱出するまでの一連の場面は、『第三の男』の下水道の場面で見られたような、人工の構造物の美が生きています。暗いガス工場の複雑な内部機構、張り巡らされる配管、そこを脱した翌朝の操車場の陽射しの中、跨線橋を逃げるレイヴン。橋の上から下を走る列車に飛び移るという、現在の映画でもおなじみのアクションをアラン・ラッドがキレよく演じます。映画の中でたびたび気取った決めポーズを取るところが、かわいいような、ほほえましいような・・・。

◆巻き込まれる女

 ニトロケミカル社の陰謀を明かすキーパーソンとなるエレンとゲイツとの関りを持たせるために、ゲイツのナイトクラブに雇われ、しかも、議員から彼をスパイするように頼まれるという設定は強引ですが、エレンの存在こそ、この映画の醍醐味。
 オーディションで、カードマジックと共に歌い、お客をいじり、消えたと思えば現れる。ゲイツのナイトクラブのリハーサルの場面では、ぴったりしたボディスーツで金魚を使ったトリックを披露。歌は口パクなのか、カンニングペーパーに止まったままのような視線ですが、そんなのどうでもいい、ヴェロニカ・レイクの瞳に乾杯!
 実際、彼女は「忘れじの女優」として年配男性からいまも熱い支持を受けている、と聞いたことがあります。私が初めて見た彼女の映画は『奥様は魔女』(1942年/監督:ルネ・クレール)という、彼女の演じる魔女が人間の男性に押し掛け女房に来るという、なんとものほほんとしたコメディでしたが、彼女だったら魔女じゃなくても男はフラフラと魔法にかかったようになってしまうかも?
 トレードマークのブロンドの前髪を真似した女性が髪を兵器工場の機械に巻き込まれる事故があり、真似しないようヴェロニカ・レイクが髪を切ったら途端に人気が落ちた、という話もどこかで聞いたことがあるのですが、出所がつかめませんでした。事故があったのは事実のようですが、後半は都市伝説でしょうか。

◆謎の売国奴

 残念ながら、この物語の黒幕、母国を裏切るニトロケミカル社の巨悪ぶりがパッとしません。スタッフ・役者の実力がもろに見えてしまった部分です。特にまずいのは首謀者であるはずの社長。車椅子で、しょっちゅうミルクに何かを浸して食べている、という細かい設定がどんな背景を持つのかは不明。敵国に毒ガスを売る悪魔的な人物と言うより、病気のお年寄りにしか見えません。社長も、彼の秘書も、ゲイツの部下もおざなりな芝居で、この手の映画の役者と言ってしまえばそれまでですが、彼らがもう少し頑張ってくれればレイヴンの潜入劇ももっと盛り上がったのに。

 愛国のヒーローを演じたアラン・ラッドは一躍有名に。彼もヴェロニカ・レイクも小柄で、つり合いが取れるので『ガラスの鍵』(1942年/監督:スチュアート・ヘイスラー)、『青い戦慄』(1946年/監督:ジョージ・マーシャル)でもコンビで出演しています。
 中年以後は二人とも恵まれず、アラン・ラッドは1964年に50歳でアルコールと睡眠薬ののみすぎで、ヴェロニカ・レイクも過度の飲酒がもとで1973年に50代で亡くなったそうです。合掌。

 

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