この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

エイリアン

SFホラーの金字塔。続編『エイリアン2』についても少し触れています。宇宙でも猫はやっぱりマイペース?

 

  製作:1979年
  製作国:アメリ
  日本公開:1979年
  監督:リドリー・スコット
  出演:シガニー・ウィーバートム・スケリット
     ジョン・ハートイアン・ホルム 他
  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    主人公? 宇宙船? のペット
  名前:ジョーンズ
  色柄:茶トラ

◆征服者エイリアン

 この映画の公開当時、「エイリアン(alien)」という言葉そのものが日本ではなじみがなく、「エイリアン」とは、異邦人とかよそ者という意味の言葉であるという説明がされていたように記憶しています。いまではすっかり、侵略的な厄介な存在をエイリアンと呼ぶことが定着してしまいましたが、パロディ化されたものも含め、「エイリアン」という語が題名に含まれる映画やドラマは全世界にどれくらいあるのでしょう。怖い、気持ち悪いと言われながら、エイリアンは人類の心に深く住み着いて世界中に蔓延してしまったのです。

◆あらすじ

 貨物曳航宇宙船ノストロモ号は、地球への帰還中に正体不明の信号をキャッチした。発信元の小惑星に着陸し、3人の乗組員が発信者の異星人の化石化した遺体と、洞窟に無数の卵のような形の物体を発見する。その物体に近づくと突然生き物が飛び出し、ケイン(ジョン・ハート)のヘルメットを溶かして顔に貼りつく。ノストロモ号に戻った3人に対し、リプリーシガニー・ウィーバー)は、ケインを宇宙船に入れずに隔離しようとするが、アッシュ(イアン・ホルム)が入れてしまう。
 ケインの顔に付いた謎の生物は、脚を切断しようとすると強酸を出し、宇宙船の床に穴が開く。その生物はいつのまにかケインの顔からはがれて死んだ。リプリーが死骸を船外に捨てるよう主張しても、アッシュは地球に持って帰ると言い、船長(トム・スケリット)もアッシュに任せてしまう。離陸後まもなくケインは元気になるが、急に苦しみだし、歯だけが目立つ気味の悪い生物がケインの腹部を食い破って逃げ、宇宙船のどこかに隠れてしまう。生物(エイリアン)は見つけられないまま成長を続け、乗組員たちを次々に襲う。残された4人は脱出艇で逃げようと相談するが、議論に加わらないアッシュを不信に思ったリプリーがコンピュータにうかがいを立て、この船はエイリアンを捕獲して地球に運ぶことが目的だったことを知る。アッシュはそのために船会社から送り込まれたのだった。
 脱出用のシャトルリプリーが準備する間に、他の乗組員は次々とエイリアンに襲われ、残されたのはリプリーと猫のジョーンズだけになってしまう。リプリーはジョーンズと共に脱出艇に乗り込み、母船を爆破して地球に向かうが…。

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◆お邪魔なジョーンズ

 新型コロナの流行による在宅勤務で、仕事の邪魔をする猫たちのことが話題になりました。リモート会議に飛び入り参加したり、パソコンのキーボードを占拠したり。『エイリアン』に出てくるトラ猫ジョーンズも、猫々しい行動で乗組員の足を引っ張ります。ジョーンズは、冒頭まもなく、乗組員がコールドスリープから目覚めて食事をするシーンから最終盤まで、ところどころに登場します。
 ケインの腹を食い破って逃げたエイリアンを探しに、動くものに反応する探知機を使ってリプリーらが三人組で船内をめぐると、ロッカーに反応が。網を持って1、2の3で待ち構えると、飛び出してきたのはジョーンズ。な~んだ、と気が抜けたところで、また機械が反応してはいけないと、ブレットがジョーンズを探しに行きます。もう少しのところで捕まえようとしたとき、ジョーンズがウーッと威嚇の声。ブレットの背後にエイリアンがいたのです。ジョーンズを探しに行ったばっかりにエイリアンの犠牲になってしまうブレット。襲われているときに、ジョーンズの「それがなにか?」とでも言いたげな顔が画面いっぱいのアップで2度映ります。コラッ、お前のせいだ!

 なぜ宇宙船のような、触ってはいけない物とかごちゃごちゃと隅っこがあったりするような所に猫なんか乗せたのだ、と思うのですが、ネズミの害から船を守り、航海の安全のアンテナとなる猫を乗せる、という船の伝統からでしょうか。これが犬だと、人間と一緒に戦ってしまう。宇宙船の隅で助けを求めるようにニャ~ンとか細い声で鳴いていた猫を救おうと、キャリーケースに入れて母船から逃げる場面は、リプリーの孤立無援な脱出劇と、爆破までのカウントダウンの緊迫感をいやがうえにも高めます。

◆別のストーリー

 脱出艇への通路の手前でエイリアンと出くわし、一旦ジョーンズの入ったキャリーケースを置いて、爆破を止めに走るリプリー。けれども爆破はもう止められず、宇宙船に残る選択肢は消滅します。リプリーはギリギリのタイミングでシャトルにキャリーケースと共に乗り込みます。
 リプリーがキャリーケースを手離していた間に、ジョーンズにエイリアンが寄生して、脱出用のシャトルリプリーとジョーンズが乗り込んだあとでリプリーが襲われてしまうとか、ジョーンズの中にエイリアンが寄生したまま地球まで運ばれてしまう、などのストーリーを思い浮かべた人もいたと聞きます。続編の1986年の『エイリアン2』(監督:ジェームズ・キャメロン)を見ると、リプリーもジョーンズも無事地球に帰っています(57年もかかって!)。再度あの小惑星へエイリアン討伐にリプリーが旅立とうとするとき、ジョーンズは留守番に置いて行かれます。リプリーは死ぬ覚悟で、ジョーンズを道連れにしてはかわいそうと思ったのでしょうか。…まあ、やっぱり前回で懲りたのでしょうけれど。

 『スクリーンを横切った猫たち』によれば、シガニー・ウィーバーが『エイリアン』のプロモーションのため来日したとき、わざわざジョーンズに似た茶トラの猫をコーディネートして一緒に記者会見に臨んだそうです。ところがこの猫、カメラのフラッシュに驚いて彼女のドレスをひっかいて台無しにしてしまったとか。まったく、猫ってやつは!

 ◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

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◆宇宙で朝食を

 『エイリアン』を久しぶりに見て、思い浮かべたのは『ティファニーで朝食を』(1961年/監督:ブレイク・エドワーズ)です。茶トラの猫をペットにしている女性主人公、という共通点を持ちながら、そのキャラクターの描かれ方の違い。ドレスアップして男性の気を惹き、女を売り物にお金持ちと結婚することを究極のゴールとして行動する『ティファニーで朝食を』のホリー。彼女にお金より心の絆の大切さを教えてくれた男性と結ばれるハッピーエンド。
 一方、『エイリアン』のリプリーは、カッコいい、強い、逞しい。たった一人でエイリアンという怪物や、エイリアンを連れ帰る目的で宇宙船を航行させた会社のたくらみと対峙します。ジョーンズに茶トラの猫を起用したところは、『ティファニーで朝食を』の主人公との対照性を意識したものではないか、と私は思うのです。

◆戦う女

 伝統的な怪物ホラー、西部劇、アドベンチャーものなどでは、勇敢な男性主人公が、悲鳴を上げて助けを呼ぶ女性を救います。しかもこれらの映画では、女性の存在やその向こう見ずな行動がピンチを招くことが多いのです。『エイリアン』では、リプリーが伝統的な男性ヒーローの役割、猫のジョーンズがピンチを招く女性の役割を担っています。
 リプリーは、科学担当のアッシュの勝手な行動を「わたしの方が上位者だ」と戒めます。自分より年上の男性に、自分の方が上だと女性が制することは、今でもためらわれることかもしれません。けれども、責任と権限が与えられた以上、女性はその壁を破らなければなりません。
 リプリーのカッコよさは、脱出用のシャトルに乗り込んだ彼女が着替えるときの下着のシンプルさにも表れています。レースなどの飾りや、ピンクなどの女の子色を使わない機能一点張りのアイテム。唯一、股上が浅く、前が開いていないショーツが、その主が女性であることを主張。不思議にセクシーさをかもし出しています。

 圧倒的な力に正面から一人で立ち向かう女性像の原点となった『エイリアン』。『エイリアン2』では、リプリー小惑星で取り残された少女を守って武器を構えるスチル写真が使われ、リプリーの頼もしさはさらに増していきます。ただ、マッチョな男性ヒーローを女性に置き換えただけのような描き方は、はたしてこれでいいのか、という疑問を生みます。それを補うように、エイリアンとの遭遇から地球に帰還する57年の間に実の娘に先立たれてしまったリプリーの、少女に寄せる母性が描かれます。
 何がどこから出てくるかわからなかった第1作の恐怖に比べ、その後の『エイリアン』シリーズは、エイリアンの精密な描写と人類の闘いのゲーム的な展開が中心になっていきます。リプリーを演じたシガニー・ウィーバーも、これを越える役にいまのところたどり着いていないようです。

◆ディレクターズ・カット版

 『エイリアン』は、2003年にディレクターズ・カット版が発表されました。ハリウッドではプロデューサーの力が強く、劇場公開時に内容が変更させられたり、シーンが削除されたり、監督の意に沿わない改変を余儀なくされることがよくあります。人気の出た作品を後日監督(ディレクター)が自分の意図通り編集した版が、劇場公開版とは別のディレクターズ・カット版。監督の思い入れのあるカットやシーンが追加されることが多いようです。
 『エイリアン』ディレクターズ・カット版では、ケインを宇宙船に入れるのを拒んだリプリーに腹を立てた女性乗組員のランバートリプリーに平手打ちをしたり、ジョーンズを探しに行ったブレットをエイリアンの視線から見るカットが入ったり、リプリーが手離したジョーンズのキャリーケースがエイリアンに突き飛ばされる、といったカットが追加されています。ジョーンズにエイリアンが寄生して…というアナザーストーリーを考えた人たちがいたのは、劇場公開版ではキャリーケースをエイリアンが突き飛ばすところまでは映らず、ジョーンズの背後にエイリアンが迫る映像が一瞬だけ入ったため、これは何かを暗示しているに違いない、と思ったからでしょう。

 ディレクターズ・カット版で追加されたシーンで、最も議論を生むであろう部分についてはあえて伏せます。おそらくプロデューサーの判断で削除されたのだと思います。日本のSFホラー映画『美女と液体人間』(1958年/監督:本多猪四郎)は、人間がジェル化して東京にパニックを起こす映画ですが、最後はその液体人間をガソリンで焼き殺してしまいます。けれども、この液体人間は人間が変身しただけで、死んでからよみがえったわけでなく、まだれっきとした国民なのに焼き殺してしまっていいのだろうか、と思ったのですが、『エイリアン』ディレクターズ・カット版で追加された問題のシーンにも、似たようなところがあります。
 ちなみに『美女と液体人間』の美女は、彼女を愛する学者が助けに来るまで、レースのスリップ姿で築地の下水道を逃げまどっています。 

 

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