この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

小さな恋のメロディ

「僕たち結婚します」と学校を飛び出したダニエルとメロディ。昭和の日本で爆発的にヒットした胸キュンストーリー。

 

  製作:1971年
  製作国:イギリス
  日本公開:1971年
  監督:ワリス・フセイン
  出演:マーク・レスタートレイシー・ハイドジャック・ワイルド
     ジェームズ・コシンズ、他

  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆(ほんのチョイ役)
    オーンショーの家の猫
  名前:不明
  色柄:三毛

 

◆あの頃

 今回と次回にわたり「思い出そう、初恋」をテーマに2本の映画を取り上げます。それぞれを比較してみたいと思いますので、ぜひ次回も読んでくださいね。
 ちょうどこの映画の主人公たちと年齢が近かった私、映画館に見に行ったときのことをよく覚えています。
 『小さな恋のメロディ』の、電柱にくくりつけられたポスターを見て、仲良し三人組で見に行きたいね、と話していたところ、一人は行かず、もう一人の子がお母さんも一緒にと、私と合わせ三人で見に行きました。放任家庭の私は、なぜ友だちのところはお母さんも来たのだろうと思ったのですが、この頃、15歳と14歳の少年少女が恋をし、子どもを産む『フレンズ ポールとミシェル』(1971年/監督:ルイス・ギルバート)という映画が話題になっており、友だちのお母さんはその手の映画ではないかと心配してついてきたのだろうと思っていました。けれども、この文章を書くために調べてみると『フレンズ』の日本公開は『小さな恋のメロディ』よりも4ヶ月以上後なので、私の記憶違いだったのかもしれません。
 友だちのお母さんが背をまっすぐにして見ていた、という記憶もあるのですが、横並びで座っていたはずなのでそんな姿を見られるはずがありません。あれ、友だちの妹も来ていたかな? 私の記憶もずいぶんあいまいなものです。

◆あらすじ

 11歳のダニエル(マーク・レスター)は、過干渉気味のお母さん(シーラ・スティーフェル)を少々うるさく感じ始めてはいたが、まだまだその翼の下から出ようとしていなかった。そんなダニエルは少し大人びて悪ぶっている級友のオーンショー(ジャック・ワイルド)と仲良くなり、いつも一緒に行動するようになる。
 ある日二人が、学校で女の子のバレエのレッスンを覗き見していると、髪の長いかわいい女の子がダニエルの目に留まる。それはメロディ(トレイシー・ハイド)という別のクラスの女の子だった。覗き見していた男の子たちは先生に見つかってレッスン室に招き入れられ、罰として一緒に踊らされる。
 それ以来いつもメロディのことを目で追いかけているダニエルをメロディも意識し、二人のことがみんなの噂になる。そんなとき、音楽の楽器演奏のテストの順番を待つ控室で、偶然二人はバッタリ。自然に即興で合奏し、急速に仲良くなる。ついにいつもダニエルと一緒だったオーンショーが、メロディと連れ立ったダニエルに置いてきぼりにされるまでになってしまう。
 ダニエルとメロディはある日学校をさぼって海岸に遊びに行った。それが学校にばれ、二人を呼び出した校長先生の前で、ダニエルは「僕たち結婚します」と宣言する。それが級友たちにも伝わり、二人はさんざんからかわれ、ダニエルは初めてオーンショーに飛びかかって取っ組み合いのけんかをする。
 ある日、ダニエルのお母さんの取り乱した電話を受けた校長先生が教室を見に行くと、一人を残して生徒たちが消えていた。残っていた生徒は、みんなダニエルとメロディの結婚式に行った、と答える。
 先生たちとダニエルのお母さんは大慌てで二人の結婚式の場所に向かう・・・。

◆食卓に猫

 始まってから38分ほど、たった2秒ほどですが三毛猫が登場します。場所はダニエルの悪友オーンショーの家のテーブルの上。インスタントコーヒーや卵のパックなどが雑然と置かれた陰で、迷彩柄のような三毛猫が器に頭を突っ込んで何かを食べていると、オーンショーがつかまえてテーブルの下に降ろし、忙しく食事の支度にとりかかります。顔もはっきり映らない猫ですが、屋外から屋内に場面が切り替わるときにこんな風に猫が一瞬登場する映画をいくつか見たことがあります。猫がいることによって、ここは誰かの家の中、という説明になっているわけです。
 オーンショーはヤングケアラー。ダニエルと初めて遊びに行った日、夕方の5時過ぎとわかると顔色が変わります。帰っておじいちゃんにソーセージを食べさせないとおじいちゃんがキレると言うのです。急いで帰らなければ、とダニエルはタクシーを呼び止め、オーンショーは金を持っていない、とあせります。けれどもダニエルの家は経済的に豊か。ダニエルはタクシーを家の前に横付けさせてお金を取りに行き、生意気にも「お釣りはいらない」とまで言ってタクシーを帰します。
 さらにダニエルはオーンショーに、映画に行こう、チケット代は僕が出す、などと言い、オーンショーをイラっとさせます。おじいちゃんの世話をする人がほかに誰もいないとわかると、今度はいつも貧しい人への奉仕活動をしているお母さんをよこす、とまで言います。オーンショーはダニエルが悪気なく言っていることを理解し、家事を手伝いに来てくれるということをありがたく受け取ったようです。
 けれども、いざその当日、お母さんは緊急の会合でおめかしをして出かけてしまいます。ダニエルはオーンショーの所に代わりに出かけ、すまなそうに「おじいちゃんの食事の支度でもお皿洗いでも何でもする」と申し出ます。ムッとしていたオーンショーはダニエルのそんな言葉を聞き、やっと微笑んで家に招き入れます。

◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆半世紀

 昨年2022年10月に、新型コロナの流行の影響で1年遅れになったものの、映画公開50周年を記念して主役のマーク・レスタートレイシー・ハイドが来日、東京、横浜、京都で映画の上映とイベントが行われたことをご存知の方も多いと思います。それをきっかけにこの映画を見たという方もいらっしゃるかもしれませんね。イベントでは、トークショー、サイン会、撮影会、懇親会などが行われたということですので、この映画と主役二人の人気がいまだ衰えないことを物語っています。

 けれども、調べてみると、この映画は日本やラテンアメリカ諸国では大ヒットしたものの、本国イギリスやアメリカでは不人気だったそうです。
 リアルタイムにその日本での人気を見聞きした者としては、「ダニエルを演じたマーク・レスターのかわいらしさが女性たちをとりこにしていた」、この記憶だけは確かと言うことができます。日本の女性はあまりセックスアピールのある男性を好まず、少年のような男の子に群がる気がするのですが、この映画のマーク・レスターはまさに成熟前の美しい男の子が性を意識させないあどけない恋をする、という点で日本女性のツボにはまり、大ヒットとなったように思います。
 ちょうどこの映画に、メロディの友だちの女の子たちが墓地にローリング・ストーンズミック・ジャガーのセクシーなポスターを持ち込んでキスをするという場面がありますが、日本の女性は異性への性的関心をこんなふうに主体的に表現しないのではないでしょうか。英米でこの映画がヒットしなかったのは、恋愛とは切り離せないはずの性の要素が描かれていなかったからではないかと思います。
 「結婚したい」と言ったものの、ダニエルもメロディもその意味を認識しているわけではなく、ただいつも一緒にいるのが幸せだから結婚したい、と思っているだけ。二人の頭の中はその程度の幼さなのですが、大人は大慌て。子ども対大人の物事に対する考え方のチグハグさが、この映画のキーでもあります。

◆映像とメロディ

 この映画を語るうえで欠かせないのはビー・ジーズの音楽。映画が始まるとギターのイントロ、夜明けの風景と共に『In The Morning』のメロディが流れます。そこに原題の『Melody』の子どもっぽい手書きの文字と×で表されたキスマークが現れる。俯瞰で街並みを追ったカメラは、やがてダニエルが加入する鼓笛隊の行進をとらえ、窓から見物する犬や子どもたちのショットが入る。そうしたおしゃれなイメージ映像とそれを増幅する音楽体験。ミュージックビデオのように『若葉のころ』『To Love Somebody』などの名曲が次々と展開し、夢見心地にさせたのです。中でも『メロディ・フェア』の、おさげ髪のメロディが廃品回収業者からもらった金魚を入れた瓶を持って街中を歩くシーンが、まぶたに耳に焼き付いている、というファンも多いのではないでしょうか。
 映画を一緒に見た友だちも音楽のとりこになって、サントラのLPレコードを買いました。友だちの家で聴きながら、ダンスパーティーの場面で流れる歌に『タモリ倶楽部』の「空耳アワー」のような怪しい日本語歌詞を私がつけて、踊ったりしましたっけ。今もサントラ盤のCDが、日本など映画がヒットした国で売られているそうです。
 ビー・ジーズの映画音楽といえば『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年/監督:ジョン・バダム)のディスコミュージックも一世を風靡しましたね。メロディアスな『小さな恋のメロディ』とは別世界ですが、その間たった6年ほどしかたっていなかったとは意外に思います。

◆若葉のころ・・・

 そんな当時の記憶を胸に、この映画の録画を数年前に見直したとき、さすがにあれから何十年もたって同じ感動は得られないにしても、先生たちが結婚式に乗り込んで大騒ぎになり、ラストが訪れたときの高揚感のいく分かは、古いアルバムを開いたときのように自分の中によみがえってくるものと思っていました。が、意外にも、自分はあの頃いったい何にワクワクしたのか、と取り残された気持ちになってしまいました。私は成長したのか、退化したのか・・・。
 代わりに自分の中に残ったのは、ダニエルの家庭とメロディの家庭の対比。裕福なダニエルの両親が友人を夕食に招待したときの、ダニエルを無視して続けられる大人の会話での奉仕活動先の貧しい家庭への皮肉や、そんな皮肉の延長線上にあるような、メロディ一家の質素な食卓。格差は明らかですが(メロディのお父さんのズボンのサスペンダーはゴムが伸び切ってヨレヨレになっています)、お金にも教養にもそれほど恵まれてなさそうなメロディの両親やおばあちゃんは、子どもにちゃんと目を配り、守ってやっています。

 脚本は『ミッドナイト・エクスプレス』(1978年)の監督のアラン・パーカーマーク・レスターばかりではなく、メロディのトレイシー・ハイドも大人気でした。オーンショーを演じたジャック・ワイルドは53歳でがんのため亡くなってしまったそうです。生きていれば昨年のイベントに一緒に来日してもらいたかったと思います。

 漫画家しりあがり寿さんの作品に『小さな恋のメロディ』(1989年)というわずか6ページの短編があります(注)。人類初の恒星間宇宙船の乗組員に選ばれたのは某県立高校の野球部。一人が『小さな恋のメロディ』のサントラ盤のカセットテープを宇宙船に持って来てみんな大喜び。宇宙で「メロディみたいな娘がいないかなー」と一人が言ったりするうち、意外なラストが待ち受けています。私は、この漫画が心に沁みて沁みて・・・。皆様も機会がありましたら映画と合わせてこちらも読んでいただきたいと思います。

 ・・・なにか今回はとりとめのない話に終わってしまいましたが、少しは思い出せましたか? 初恋。

 

(注)「小さな恋のメロディ」/しりあがり寿/『夜明ケ』/白泉社/1990年/所収

◆関連する過去記事

eigatoneko.com

◆パソコンをご利用の読者の方へ◆
過去の記事の検索には、ブログの先頭画面上部の黒いフチの左の方、「この映画、猫が出てます▼」をクリック、
「記事一覧」をクリックしていただくのが便利です。