13歳のヴィックは、好きな男の子との仲を決定的にしようと頭がいっぱい。ソフィー・マルソーの魅力で突っ走った青春ロマンス。
製作:1980年
製作国:フランス
日本公開:1982年
監督:クロード・ピノトー
出演:ソフィー・マルソー、クロード・ブラッスール、ブリジット・フォッセー、
ドニーズ・グレー 他
レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
◆◆ この映画の猫 ◆◆
役:☆(ほんのチョイ役)
お父さんの浮気相手の猫
名前:不明
色柄:黒
◆大ブーム
1980年12月に本国フランスで公開されると、450万人と言われる観客動員を数える大ヒット、というこの映画。1980年のフランスの人口は5373万人なので、単純計算でおよそ12人に一人が見た計算になります。日本でもその題名があまねく知れ渡り、主人公を演じたソフィー・マルソーが東洋人的な顔立ちで親しみやすく、評判になりました。2年後に続編の『ラ・ブーム2』(監督:クロード・ピノトー)が同じくソフィー・マルソーを主人公に作られ、また2022年12月に40周年を記念してデジタルリマスター版が日本で公開されるなど、人気のほどを物語っています。
『ラ・ブーム』のブームとは、フランスで、ティーンエイジャーが誕生日だとかを機会に自宅に友人たちを呼ぶ、大人はオフリミットのパーティーだそうです。となると、タバコとか、異性との接触とか、大人の目の届かないのをいいことに背伸びをするのが当然の成り行き・・・と言うより、それを目的に開かれる出会い系パーティーと言ってよさそうです。親たちも口出しをしないよう気を遣いつつ、かつて通った道として展開が想像できるだけに心配もひとしお。ブームがお開きになるのを今か今かと車でお迎えに集まって来る様子が、映画の中に描かれています。
◆あらすじ
13歳のヴィック(ソフィー・マルソー)は、歯科医のお父さん(クロード・ブラッスール)とイラストレーターのお母さん(ブリジット・フォッセー)と三人家族。パリに引っ越して来て、新しい学校の新学期もスタートし、仲の良い友だちもできる。
ヴィックと友だちは気になる男の子の自宅で開かれるブームに呼ばれ、大喜び。お母さんは初めいい顔をしなかったが、ヴィックがひいおばあちゃん(ドニーズ・グレー)のアドバイス通りにしてみると、OKをもらうことができた。
当日、ヴィックはマチュ―(アレクサンドル・スターラン)という少しエキゾチックな男の子に声をかけられ、体をピタッとくっつけて夢のチークタイムを過ごす。
お母さんが漫画の連載を始めようと忙しくしている傍ら、お父さんは以前浮気していた女性に捕まる。彼女はお父さんが脚を折ったと嘘の電話をして、お父さんを一晩引き留めた。ニセのギプスを着けて一旦は口裏を合わせようとしたお父さんは、お母さんに真相を告白、しばらく家を出て別居することになる。
ヴィックは、マチューが派手な女の子とも遊んでいることを知り、ショックを受ける。そんなヴィックを守ろうと、お父さんはヴィックがマチューを監視するために来たローラーディスコ(ローラースケートをはいて音楽に乗って踊りながら滑るディスコ)に潜り込んでヴィックの邪魔をする。
そんなこんなで勉強に身が入らないヴィックのことで、ドイツ語の先生がお母さんを学校に呼び出すが、今度はお母さんが先生と親密になってしまう。お父さんは、お母さんが自宅の前で先生のキスを拒むところを偶然見かけ、後を追って彼をぶん殴る。ヨリを戻そうと、お父さんはお母さんをヴェニス旅行に誘うが、お母さんは同じ日に先生とアフリカへ旅する予定になっていた。
ヴィックはひいおばあちゃんの運転する車で、将来の職業訓練とバカンスのためにカブールで過ごすマチューのところに乗りこみ、海辺の小屋で彼に身を任せようとするが・・・。
◆猫、大丈夫?
この映画にも、猫は一瞬、いえ、二瞬しか出てきません。場所はお父さんの浮気相手の女性の部屋。暖炉で燃えさかる火、お酒の瓶やグラス、そして黒に近い濃いグレーの長毛の猫。暖炉のそばに寝そべる猫の図なんて、贅沢と平和と幸せの象徴ですが、この猫、口から舌を出してハアハアと荒い息をしているのです。うっかり舌先をしまい忘れたようなあの舌の出し方ではなく、暑い日の犬のよう。どう見ても体に異常が起きているサインだと思うのですが、映画は非情に進行、お父さんと浮気相手の大人の会話に移ってしまいます。実際はそのとき猫は同席していなかったかもしれませんが、猫好きには気がかり。
しばらくして、ベッドサイドのテレビのラブシーンの前を、その猫が横切って行きます。これが二瞬目。ここの撮影がさっきの舌が出ている場面より後だったとしたら、猫の体に特に異常はなかったしるしだと思いますが・・・。
このお相手の女性、バニーガールの格好をしてお父さんにお酒を出したり、色っぽいビデオを何本も用意したりしてお父さんにグイグイ迫ります。お父さんは平凡な中年男性にしか見えませんが、ヴィックの友だちの小学校低学年くらいのおませな妹も、お父さんを見かけて「セクシーだ」と憧れを抱きます。つまり、浮気したからと言ってお母さんが思いきれないほどの男性的魅力を持っている、ということでしょう(私にはあまりピンとこないのですが・・・)。
お父さん役のクロード・ブラッスールは、ゴダール監督の『はなればなれに』(1964年)でも、二人組の男性の、女性から好かれる方を演じています。
猫が出て来るのは始まってから36分ほどたった頃です。
◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆
◆恐るべき子供たち
「思い出そう、初恋」をテーマに選んだ映画の2本目。前回のほほえましくあどけない『小さな恋のメロディ』(1971年/監督:ワリス・フセイン)とは打って変わって、なんとも、はあ。
公開当時には見ていなかったのでその頃のことはわかりませんが、今見ると、なぜこんな映画がヒットしたのかわからない、というのが正直なところです。この映画が『小さな恋のメロディ』とほぼ同時期の1970年初頭の公開だったら、あるいは、『ラ・ブーム』の公開と同じ頃に『小さな恋のメロディ』が初公開されたとしたら、観客はそれぞれの映画にどんな反応を見せたでしょうね。
『小さな恋のメロディ』が、日本やラテンアメリカ諸国でヒットしたものの欧米では人気が出なかったのに対し、この『ラ・ブーム』はフランスを始めヨーロッパ、アジアでヒットしたそうです。恋愛においては避けては通れない性の要素が描かれていない『小さな恋のメロディ』に対し、『ラ・ブーム』は、主人公たちが性をからめた異性との出会いに前のめりな姿が描かれます。ヴィックは、ひいおばあちゃんに「デートする」というのは、くちびるにキスすることだと教え、グループで行った映画館の座席で「デート」したり、友だちがエッチないたずらをしたりします。
ヨーロッパで『ラ・ブーム』がヒットした理由は、率直に異性や性への関心を主人公たちが表し、主体的に相手を選んで行くという態度に若い観客が共感したからではないでしょうか。
一方、13歳の主人公がその日パーティーで出会った男の子とべったり抱き合ってチークダンスを踊る、というのは、日本文化で育った者としては、覚えるものは共感より違和感(バブル期のディスコではよくあった光景・・・らしい)。ヴィックも初めのうちは初対面で「デートする」ことには抵抗があったようですが、ターゲットとなる異性を見つけると、前進前進、また前進。
さて、読者の皆様の初恋は『小さな恋のメロディ』型だったのか、『ラ・ブーム』型だったのか・・・。
◆シンキングタイム
40年たった今、日本の中学生たちがヴィックたちのように異性との出会い系パーティーを開いている、といううわさは聞かないので、日本の文化的背景は40年前とそう大きくは変わっていないと思います。そうすると、『ラ・ブーム』の何が良くて日本でヒットしたのか、という考察を40年後の今してみても、そう的外れではないのでは、と思います。
◆ストーリー?
13歳という青春駆け出しの子たちが、出会い系パーティーにうつつを抜かす。それをたきつける曾祖母は、40年以上妻のある男性と恋人関係を続けています。親は親で浮気だ別居だと右往左往。それぞれの年代や立場での愛の悩みが存在する、というわけですが、いずれも表面的な描写にとどまり、だから何? というレベルです。両親の別居にもヴィックは悩むどころか、自分の恋愛がこの世のすべて。なりふり構わぬ尻軽ぶりが、ストーリーが進むにつれ露わになっていきます。こんな子はお尻ペンペンだ!
◆音楽?
初めて参加したブームで、マチューがヴィックに流行の最先端・ウォークマンのヘッドホンを着けさせ、そこで流れてくるのがこの映画のテーマ曲「愛のファンタジー」(歌:リチャード・サンダーソン)。この曲に乗って、二人はチークを踊ります。たしかにこの曲は大ヒットして、いまもどこかでBGMとして流れていそうです。けれど、映像と音楽の見事なコラボレーションの『小さな恋のメロディ』に比べると、聞き流せるイージーリスニング的なこの1曲だけでは、勝負になりません。
◆役者?
700人余の中から選ばれたと言われ、俳優デビューした1966年生まれのソフィー・マルソー。当時から彼女が一人でこの映画の人気を牽引していたという印象がつきまといます。この時点では彼女のポテンシャルは未知数だったものの、007シリーズの『ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年/監督:マイケル・アプテッド)でボンドガールに選ばれるなど、国内外に活躍の場を広げ、俳優業ばかりでなく監督業にも進出。ついにフランス政府から2003年に芸術文化勲章(北野武監督や2023年3月に亡くなった音楽家の坂本龍一など、日本人受賞者も多数)を授与されたそうです。
そんな彼女の原点のこの映画。エンド・クレジットがかぶる彼女の静止映像の、マチュー以外の男の子と抱き合って宙を見つめる恍惚とした表情。知性とか美しさとかの特別なカリスマ性は感じさせないのですが、それゆえにこの顔が、女の子は誰でもヴィックのように自分の好きに貪欲に行動していいのだ、というメッセージを世界中の年若い女性に発信した、と言えるのではないでしょうか。
80年代、世界的に10代の女性アイドルが注目を浴びました。皇太子だった当時の天皇陛下がお好きだとおっしゃったブルック・シールズや、『グレムリン』(1984年/監督:ジョー・ダンテ)のフィービー・ケイツとか、危なっかしさを抱えつつも大人にはない可塑性で、想像力を刺激した若い女性たち。その系譜にソフィー・マルソーは君臨していると言えるでしょう。ただ、あの頃の彼女たちは男性目線で作られた商品という感があったなあ・・・。
◆まとめ
ストーリー、音楽、役者、と見てきましたが、良し悪しは抜きで、いずれも80年代らしい匂いにあふれています。お父さんが着ている、ブランドロゴや刺繍の入ったシャツなども懐かしい。総合的に、この映画は80年代テイストを知るうえで優れたサンプルと言えるかもしれません。
最後に、お母さん役のブリジット・フォッセーについて一言。1952年のルネ・クレマン監督の戦争映画の名作『禁じられた遊び』、あの戦争孤児のポーレットを演じたのが彼女なのです。世界中が涙した「ミッシェール、ミッシェール!」と叫ぶ切ないラスト・・・。彼女は10代には学業に励み、芸能活動から遠ざかっていたそうです(聞いたか、ヴィック!)。この映画にもちょっとだけ猫が出てきますので、いつか取り上げたいと思います。
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