日本を舞台にした007シリーズ第5作。奇妙な日本に目を白黒!
製作:1966年
製作国:イギリス
日本公開:1967年
監督:ルイス・ギルバート
出演:ショーン・コネリー、ドナルド・プレザンス、若林映子、浜美枝、丹波哲郎 他
レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)
◆◆ この映画の猫 ◆◆
役:☆☆(脇役級)
スペクターの首領ブロフェルドの愛猫
名前:不明
色柄:ペルシャのチンチラシルバー
◆そろそろ還暦
映画の007シリーズ第一作『007は殺しの番号』(監督:テレンス・ヤング)が製作されたのは1962年。現在はこの物騒な題名は『007/ドクター・ノオ』と、原題の「Dr.No」に即して表記されるのが一般的ですね。映画「007」誕生から今年で60年。人間なら還暦を迎えることになるというおなじみの長寿シリーズ。
皆様はこの「007」をなんと読みますか? 「ぜろぜろなな」「ぜろぜろせぶん」「だぶるおーせぶん」? 「ダブルオーセブン」というのが英語圏での呼び方ですが、60年代からこのシリーズになじんできたシニア層には「ぜろぜろなな」と言う人が多いのではないでしょうか。第一作の『007は殺しの番号』は「ぜろぜろななはころしのばんごう」と読むことで、七七調のすわりのよい日本語になります。60年代中頃、TVで『0011ナポレオン・ソロ』というアメリカの輸入ドラマをやっていたのですが、あれは「ぜろぜろいちいち」と読んでいました。周囲の人に「007」と示して、何と読む? と聞いてみると世代によって違う答えが返ってくるかもしれませんよ。
◆あらすじ
航行中のアメリカの有人人工衛星が正体不明の宇宙船に取り込まれてしまう。船外活動中だった宇宙飛行士は命綱を切られて宇宙のどこかに消えてしまった。アメリカはソ連の仕業だと主張し、ソ連は反論。イギリスの情報機関はその宇宙船が日本に降りたようだと、秘密諜報部員007ことジェームス・ボンド(ショーン・コネリー)を日本に派遣して真相を探る。
ボンドは日本の諜報部のアキという女性(若林映子)と秘密警察のボス・タイガー田中(丹波哲郎)と協力し、ヘンダーソン(チャールズ・グレイ)という男を訪ねて謎の宇宙船の情報を得ようとするが、ヘンダーソンは彼の目の前で殺されてしまう。ボンドはある日本企業がヘンダーソン殺害と宇宙船の件に関わっていると見て社長とビジネスを装って面会するが、見破られて命を狙われる。
その頃、ソ連の有人宇宙船もアメリカのときと同じ宇宙船に取り込まれてしまう。謎の宇宙船は神戸と上海の間に位置する島の基地に着陸する。ボンドはタイガーからそこに潜入するために忍者の訓練を受けさせられ、怪しまれないよう島の漁村でタイガーの部下の海女・キッシー(浜美枝)と偽装結婚し、日本人漁師を装う。
ボンドはキッシーから友人が島の洞穴に入った後に不審な死を遂げたと聞き、二人でそこを調べていると火山の頂上に近づいたときヘリコプターが火口に入っていくのを見る。そこは米ソの対立をあおってそのすきに世界征服を狙う謎の組織・スペクターの基地で、首領ブロフェルド(ドナルド・プレザンス)が動かしていた。ボンドがそこに潜入したことにブロフェルドが気づくとまもなく、キッシーの知らせでタイガーや忍者部隊がボンドの応援に駆け付ける・・・。
◆必死すぎる!
ボンドの対決する謎の組織・スペクターの首領ブロフェルドが初めてシリーズに登場したのが第二作の『007/危機一髪(ロシアより愛をこめて)』(1963年/監督:テレンス・ヤング)。ただし、そのときのブロフェルドは猫を膝に抱いてなでる手や後ろ姿が映るだけで、彼が初めて顔を見せ猫と共に登場したのが今回の『007は二度死ぬ』。けれども原作にない登場人物を勝手に作ったなどの問題で、スペクター、ブロフェルドはシリーズの途中で出て来なくなってしまいました(2015年の『007 スペクター』(監督:サム・メンデス)で久々の復活)。ちなみに、『007は二度死ぬ』で殺されるヘンダーソンを演じたチャールズ・グレイは『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971年/監督:ガイ・ハミルトン)でブロフェルドを演じています。
『007は二度死ぬ』では、ちょうど映画の真ん中あたり、秘密基地の中枢部で誰かに抱かれている猫が映り、猫によってこれはブロフェルドだな、とわかる運びになっています。この猫、タイガー田中と忍者部隊が基地に突入し騒然としてくると、ブロフェルドの腕から逃げようとして必死の形相で大暴れ。ブロフェルドが脱出しようとする直前に腕から飛び降りていなくなってしまいます。よっぽど怖かったのか耳がぺっちゃんこ。数多く映画の中に登場する猫をチェックしてきましたが、ここまで素になってしまった猫はほかにいたかどうか。猫が逃げないようドナルド・プレザンスが必死に抱きかかえているのにも苦笑してしまいます。
◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆
◆モフモフな人
1960年代、テレビの洋画劇場で「007」映画を見て、何を一番記憶しているかというと、ショーン・コネリーの胸毛です。胸板全面を覆うフサフサ黒々とした胸毛に目をパチクリ。『007は二度死ぬ』では、丹波哲郎演じるタイガー田中が自宅にボンドを招き、一緒に入浴したときにボンドに「日本女性はその見事な胸毛に惹かれる。日本人には胸毛がない」と説明します(いえ、そうひとくくりにされても・・・)。ここでボンドが日本のことわざを披露、「鳥は裸の木に巣をつくらない」。ご存知ですか、日本の皆さん?
タイガーの自宅のお風呂というのは(どう言ったらよいのか)まるでホテルで、なんとブラジャーとショーツだけの女性が4人登場して二人の身体を流します。ここはそういう特殊な浴場と一般家庭のお風呂を勘違いしているのか、わかっていて特別な客に特別なおもてなしがされていると描こうとしているのか、判断に苦しむところ。お風呂のあとは気に入った女性を選んでマッサージ。そこへアキが夜のお相手を務めにやって来ます!?
この『007は二度死ぬ』では、こればかりではなくエキゾチシズムに基づくちょっと奇妙な日本の姿が随所に見られます。ボンドの偽装妻を演じた浜美枝の、2022年1月の朝日新聞の連載インタビュー記事『語る 人生の贈り物』によると、変な日本の描写について、丹波哲郎と一緒に監督に指摘したこともあったとか。
◆ボンド漫遊記
潜水服のボンドがゴジラのように海から陸に上がって、日本で最初に訪れるのが(銀座・赤坂などを経て)国技館。本場所中で、当時大鵬・柏戸とともに横綱を張っていた佐田の山(懐かしい!)が、支度部屋を訪ねたボンドにチケットを渡し(背後で大鵬・柏戸がカメオ出演!)、その升席でアキと「アイ ラブ ユー」を合言葉に落ち合うのですが、スパイの待ち合わせにしてはあまりに奇妙奇天烈、目立ちすぎ。
ボンドを日本人に見せるために結婚式まで挙げて偽装結婚させるというのも無理やりですが、お寺の鐘が撞かれたと思ったら神前で四組の集団結婚式。浜美枝以外の花嫁はみんな中年以上の女性というのはどういうこと?
極め付きはやはり忍者の訓練。ボンドが数日稽古して忍者の技をマスターできるとは思えませんが、その訓練は空手あり、剣道あり、手裏剣あり。忍者軍団はもちろん背中に刀を担いで秘密基地に突入。刀で敗れた新選組を思い出してあ~あと思ったり、第二次大戦で刀を振りかざす前近代的な日本兵の姿が米英軍には脅威だったのだろうなあ、と『戦場のメリークリスマス』(1983年/監督:大島渚)を思い出したり。
そういう「おかしな日本」、日本ロケ、日本人女優がボンドガールに選ばれたのとで、『007は二度死ぬ』は日本で大ヒット。朝日新聞が2021年10月に読者に行った「007シリーズ」人気作品アンケートでは、1位は『ロシアより愛をこめて(007/危機一髪)』。2位は『007/ゴールドフィンガー』(1964年/監督:ガイ・ハミルトン)、3位が『007は二度死ぬ』。いまは紙の新聞の読者はほとんどシニア層と聞きますので、上位の作品がすべてショーン・コネリーの初代ボンドのものというのはそのあたりを反映しているのかもしれません。
『燃えよドラゴン』(1973年/監督:ロバート・クローズ)は、この忍者の訓練シーンや、パーティーのアトラクションでの相撲、首領が白い長毛の猫を可愛がっているという設定など、多くをこの映画から拝借したのだと思います。
◆ボンド俳優は永遠に
朝日新聞のさきほどの浜美枝のインタビュー記事によると、彼女は「007シリーズ」とは知らずにオーディションを受け、合格後、ロンドンのホテルで英語の訓練に入ったそうですが、「ボンドガールであるあなたはホテルでは常にスーツなどを着て、ハイヒールを履き、メイクは完璧に」と言われ、年配の厳しい元舞台女優の先生の指導で、窮屈なあまりストライキを起こしたとか。ショーン・コネリーはとても優しく声をかけてくれたそうですが、英語のセリフのマスターでいっぱいいっぱいであまり話ができなかったそうです。
肌もあらわなアクションシーンで目立った浜美枝に比べ、もう一人の日本人ボンドガール・アキを演じた若林映子(あきこ)の方はあまり注目されません。けれども映画を見ると、アキの方が芯が強く賢く控えめという伝統的な日本女性の美徳を示し、出番も多め。ボンドが偽装結婚を指示されたとき、てっきりアキとだと思って二人とも喜んだのに島の海女と結婚するのだと引き裂かれ、ボンドの結婚式の前、二人で眠っていたときにボンドを狙った殺し屋の毒が彼女の唇に垂れ、アキは亡くなってしまいます。日本映画の監督だったらこのシーン、もっと情緒たっぷりに描いたでしょう。いまわの際に「ボンド、これは合言葉じゃないわ。アイ ラブ ユー・・・」なんて。
丹波哲郎は、この映画や『五人の軍隊』(1969年/監督:ドン・テイラー)など、外国映画で外国人がイメージする日本人を演じたり、日本映画で日本人とかかわる外国人の役を演じたり(『アラスカ物語』(1977年/監督:堀川弘通)の酋長)、かと思えば時代劇の出演も多く、幅広い役柄を演じる柔軟性の持ち主。この映画でも地下鉄丸ノ内線の車両を自分の秘密オフィスにしているという妙な設定を何食わぬ顔でこなしています。心霊の研究でも有名でしたね。
さて、「二度死ぬ」というタイトルの意味は映画を見てのお楽しみ。丹波哲郎の「大霊界」には関係ありませんよ。
◆パソコンをご利用の読者の方へ◆
過去の記事の検索には、ブログの先頭画面上部の黒いフチの左の方、「この映画、猫が出てます▼」をクリック、
「記事一覧」をクリックしていただくのが便利です。