この映画、猫が出てます

猫が出てくる映画の紹介と批評のページです

ボヘミアン・ラプソディ

「ママ、いま人を殺してしまった」で始まる伝説の名曲。フレディ・マーキュリーの世界がここにある。

 

  製作:2018年
  製作国:イギリス、アメリ
  日本公開:2018年
  監督:ブライアン・シンガー
  出演:ラミ・マレック、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ
     ルーシー・ボイントン 他

  レイティング:一般(どの年齢の方でもご覧いただけます)

  ◆◆ この映画の猫 ◆◆
  役:☆☆(脇役級)
    フレディ・マーキュリーの飼い猫
  名前:トム、ジェリー、ロミオ、デライラ、ミコ、ティファニー、オスカー、
     リリー

  色柄:白、茶トラ、サビ、茶白、ミケ、キジトラなど


◆映画館が揺れた

 この映画が公開された2018年の日本、邦画では『カメラを止めるな!』(2017年/監督:上田慎一郎)、洋画ではこの『ボヘミアン・ラプソディ』が空前のヒット、映画館が活気づいた年でした。
 『ボヘミアン・ラプソディ』は、イギリスのロックバンド「クイーン」のボーカルで1991年11月に亡くなったフレディ・マーキュリーを主人公とした伝記映画。映画のヒットによる盛り上がりに、コンサートの雰囲気を味わおうと映画館をライブ会場に見立てた企画も行われ、観客がスクリーンに合わせて歌い熱狂したというニュースも記憶に新しいところです。映画をきっかけに新しい世代のファンも生まれました。
 今年2024年2月4日から14日まで、創立当時からのメンバーであるギターのブライアン・メイ、ドラムのロジャー・テイラーの2人に、アダム・ランバートを加えたクイーンのツアーが名古屋、大阪、札幌、東京の4都市で開催され、さっぽろ雪まつりにはクイーンの雪像が展示されたそうです。札幌公演当日券のGOLD指定席は限定グッズ付きで税込み49,000円とか!
 新たなドキュメンタリー映画フレディ・マーキュリー The Show Must Go On』(2023年/監督:フィンレイ・ボールド)も公開され、再び熱を帯びる彼らの軌跡をたどることにしましょう。

◆あらすじ

 1970年、イギリスでインド人の移民として中流家庭で暮らす20代半ばのファルーク・バルサラ(ラミ・マレック)は、音楽に夢中でライブハウスに入りびたっていた。
 ファルークはそこで活動しているバンド「スマイル」のメンバーが一人抜けたとき、自分から売り込んでボーカルとして加入する。1年後にグループ名を「クイーン」に改称し、ファルークも正式にフレディ・マーキュリーと改名した。1973年、彼らはついにメジャーデビューを果たす。フレディは恋人のメアリー(ルーシー・ボイントン)と愛する猫たちと暮らし始める。
 アルバムがチャートインし、アメリカ各地をめぐるコンサートツアーで、クイーンのパフォーマンスは圧倒的な人気を得る。そのツアー中にフレディは男性との同性愛に目覚める。
 1975年、フレディ作詞作曲の「ボヘミアン・ラプソディ」をリリース。
 イギリスに戻ったフレディがメアリーに「自分はバイセクシュアルだ」と打ち明けると、メアリーは「あなたはゲイよ」と答え、まもなく二人は同居を解消する。
 フレディは豪華な新居を構え、そこで同性愛の仲間たちと乱れたパーティーを繰り広げるが、それを使用人の一人に戒められる。その男、ジム・ハットン(アーロン・マッカスカー)は、生涯フレディのパートナーとなった。
 音楽プロデューサーやマネジャーとの衝突、従来と傾向の違う曲の失敗、フレディのソロ活動をめぐる他メンバーとの対立など、クイーンは険悪なムードになって1980年代前半に事実上活動停止状態になる。更にフレディがゲイでエイズに感染したのではないかという噂がマスコミをにぎわせる。
 そんな時期の1985年、アフリカの飢餓を救うためのチャリティコンサート「ライブエイド」出演の話が持ち上がる。フレディ、ギターのブライアン・メイ(グウィリム・リー)、ドラムのロジャー・テイラーベン・ハーディ)、ベースのジョン・ディーコン(ジョー・マッゼロ)の全メンバーは久々に集まって、これに出なければ生涯後悔すると、出演を決める。
 観客の前での演奏にはブランクがあり、不安を抱えたままライブエイド当日が訪れる。満員に埋まったスタジアム、フレディがピアノに向かって最初に歌い出したのは「ボヘミアン・ラプソディ」だった・・・。

◆猫煩悩

 この映画では全部で8匹くらいの猫が登場します。
 フレディ・マーキュリーはたいへんな猫好き。猫柄の服を着たフレディの写真を見たことがありますが、普段着としたらとても恥ずかしくて街中を歩けないほど猫びっしりでハデハデ。そんなジャケットで髪をピタッと固めてヒゲを生やしているお兄さんが前から歩いてきたら思わず道を空けてしまいそうです。
 最初に猫が登場するのは映画が始まってすぐ、フレディがライブエイド出演のため家を出る準備をしているところ。キモノの長襦袢の部屋着を羽織ったフレディが室内を歩いて行くと、床で食事中の猫が、白、サビ、茶白…点々と5匹。やがてフレディが車で出発すると、白、サビの2匹が窓からそれを見送っています。
 メアリーと出会い、同居を始めると家の中には猫がチョロチョロ。かわいいのはピアノの鍵盤の上を走る茶白。メアリーとの家の中のショットには、小さく猫の姿が映りこんだりしていますのでよくご覧になってください。世界ツアーに出ている間、メアリーとの電話で猫を電話口に出させ「早く会いたい」と言っているフレディ。
 豪華な家を構えると、フレディは猫1匹ごとに専用の部屋を与えます。この時の猫たちはロミオ、デライラ、ミコ、ティファニー、オスカー、リリーの6匹。フレディの生涯を描いたドキュメンタリー番組(注1)によれば、一番のお気に入りはデライラで、晩年エイズに侵されベッドで休んでいるフレディが、ふとんの上に寝そべるデライラを横目で見つめている写真が紹介されています。三毛とサビの2匹が乗っているのですが、視線は三毛の方に注がれているので、こちらがデライラでしょう。また映画のエンディングには、生涯を共にしたジム・ハットンが猫を抱いてフレディと一緒に写った写真も挿入されています。
 フレディの家には、マレーネ・ディートリッヒの写真が飾られています。このブログの『モロッコ』(1931年/監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ)のときに、ディートリッヒは猫を思わせると書きましたが、フレディがディートリッヒを好きだったとしたら、やはり彼女の中の猫的なるものを感じ取っていたのではないでしょうか。

◆◆(猫の話だけでいい人はここまで・・・)◆◆

◆ロック・ユー

 映画は20世紀フォックスの配給で、始めのフォックス社のロゴが出る画面で通常は金管楽器のファンファーレが流れるところ、エレキギターの音色が響くという、気の利いた演出が見られます。
 ロック系の音楽に関しては無知な私でもクイーンの曲は耳になじんでいて、それだけ彼らはメジャーだったと言えるでしょう。特に日本では彼らの曲を使ったCMが盛んに流れていましたし、それは世代を超えて受け入れられる親しみやすさがあったからだと思います。
 伝記映画とか実在する人物をモデルにした映画だと、その人をよく知るファンには、ここは事実と違う、似ていない、など細かいところが気に障り、楽しめないところもあるでしょう。本物のフレディ・マーキュリーはわりと面長で目はくぼんだ印象ですが、この映画でフレディを演じたラミ・マレックはぎょろっとした大きな目です。ギターのブライアン・メイ、ドラムのロジャー・テイラー、ベースのジョン・ディーコンを演じたグウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョー・マッゼロはよく似ています。正直に言うと主役のフレディが一番似ていないのですが、最初にフレディ役に予定されていたのはより似ている別の役者だったそうです。フレディ・マーキュリーのファンがどう受け止めたかは個人によって異なると思いますが、映画として再構築した像で臨んでいるのだと割り切っているはずの当の役者も、似ていないと言われると批判ではなくてもナーバスになるでしょう。けれども、ラミ・マレックはアカデミー主演男優賞をはじめ、多くの賞を受賞、伝説のカリスマアーティストを演じるというチャレンジが報われました。
 先日のクイーン来日直前の写真を見ると、ブライアン・メイはそのまま年を取った感じ。アイドル系のルックスだったロジャー・テイラーは、サングラスなどかけ、お腹が出ていて、若かった頃との類似点を見つけるのが難しかったですが・・・。

◆All Right!

 映画はわかりやすくまとめられ、人間が集団でプロジェクトにかかわるうえでの喜びや危機が定石通りの展開を見せ、安心の出来栄え。ブライアン・メイロジャー・テイラーも製作にかかわっています。ただ、フレディの同性愛の問題を偏見なく取り上げるには年月が必要だったはずです。映画の中で描かれているように、数十年前までエイズないしHIV感染は、男性同性愛者への好奇の目と嫌悪を反映した見せしめのような扱いでしたから。
 平凡とも言える映画なのですが、それを超えて余りあるのがライブエイドのステージを再現した圧巻のラスト。このコンサートが開催されたのは1985年7月13日、イギリスの会場はウェンブリースタジアム。参加した世界中の名だたるアーティスト各自の持ち時間は20分。クイーンの出番は開始から6時間半ほど過ぎた午後6時41分。フレディはもうすぐ39歳、他メンバーも30代後半のとき。

 NHKアナザーストーリーズ「クイーン21分間の奇跡~ライブエイドの真実~」(2023年4月7日放送)によれば、ライブエイドを企画したロックミュージシャンのボブ・ゲルドフブームタウン・ラッツのリーダー)によれば、クイーンは「終わったバンド」で、出演してもらう気はなかったそうなのです。けれどもプロモーターが、大規模なコンサートには観客を盛り上げるフレディ・マーキュリーの存在が必要だと言ったので声をかけたとか。
 クイーンの曲はフレディの歌唱力を生かし、物語性があってメロディーと歌詞が明確、誰もが口ずさめ、曲に入っていきやすいやさしさがあります。ただライブエイド当時は少々時代遅れ。クイーン自体、自分たちのファンばかりではない観客の前での演奏に不安を抱えていたそうです。
 けれども1曲目、やさしいピアノのイントロから「ママ~」の印象的な歌い出しで始まる「ボヘミアン・ラプソディ」、耳に馴染んだ曲を観客は一斉に歌い出します。一気にスタジアムの空気が変わる中、2曲目の「レディオガガ」では、ギターのブライアンもドラムのロジャーも観客が手を打って演奏に加わっているのがよく見え、感動的だったと語っています。
 そしてフレディが「エ~オ」と呼びかけてこぶしを突き上げ、観客がそれに応える掛け合いは、フレディが会場の熱気を感じて観客とつながろうと勝手に始めたアドリブだったということ。「俺達みたいなジジイのバンドを若い奴らが受け入れてくれた」とロジャーは語り、ボブ・ゲルドフも終わったとみなしていたクイーンを最高だと思ったとか。

◆選ばれし者

 映画にはライブエイド公演中に受け付けていた電話による寄付金がなかなか集まらなかったのに、クイーンの登場で急激に電話が殺到した、というエピソードも描かれています。さらに、終了後BBCが行ったアンケートではクイーンが一番よかったと答えた人が60%もいたとか(注2)。

 映画は、ライブエイドのステージをラストシーンに、フレディが亡くなるまでや、その後のエピソードを写真と字幕によって紹介しクイーンの曲に乗せて幕を閉じます。華々しい最盛期の活動と、ライブエイドでの熱狂の20分間に対し、フレディの晩年は宿命的な病にむしばまれていくという寂しいものでした。けれども皮肉なことにその結末によって、彼はより伝説的な英雄として皆の心に刻み付けられたのです。
 音楽、美術、舞踊・・・同じ病でこの世を去った多くのアーティストたち。彼らの命は、生きていたときから死のときまで、特別な者としてあらかじめ選ばれていたかのような不思議な道をたどっています。
 フレディ・マーキュリーの墓には、生まれたときのファルーク・バルサラの名が刻まれているということです。

 

(注1)NHKBS世界のドキュメンタリー「フレディ・マーキュリー 10枚の写真」
    (2024年2月7日放送)より
(注2)NHKアナザーストーリーズ「クイーン21分間の奇跡 ~ライブエイドの真実~」
    (2023年4月7日放送)より

◆関連する過去作品

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